花粉症について考える

 
 

私は結構ひどい花粉症患者です。

 

それでも、私は花粉症であることが、それほどいやではありません。むしろ今は感謝しているというのが私の思いです。

 

高校の運動部でそれなりに頑張っていたころから、引退して大学に入ってクラブに入らず、アルバイトに明け暮れるようになって、10キロ以上太ってしまいました。そのころから春になると、咳やクシャミが強く出るようになり、身体がだるくなってやる気が起らず、眼のあたりがかゆくなり、顔になんとなく違和感があって、相手の顔をじっと見ていることができなくなっていました。

 

当時は一般的に、花粉症という考え方はなく、自分はちょっとしたことで体調を崩す、虚弱な体質になったと落ち込んでいました。昭和51年に医療にかかわる仕事についてからも、春の忌まわしい体調変化は続きました。

 

今考えると、「かもがや」という雑草の花粉症だったと思いますが、何ヶ月も変な咳が止まらず、患者様と普通に話す事もままならず、中途半端な知識に振り回されて、勤務先の病院で結核の検査も何度か受けたこともあります。

 

本当に悩んでいました。高校の運動部で人並み以上の体力と健康には自信があったのに、卒業したとたんに、咳やクシャミ、微熱が、「時々理由もなく」出るようになって、(いつも発症が春先の時期だと認識したのも、後になってからです)自分の身体に強い不信感を抱くようになりました。

 

昭和の終わりころから、この春先に起る不愉快な症状が、スギやヒノキの花粉の飛来によっておこるアレルギー症状であることが明らかにされ、そして同じような悩みを持っていた人達がたくさんいたことを知って、本当に救われる思いがしました。

 

30歳代から50歳代までの間は、結構ひどい症状に悩まされ、(晩酌するようになったからだと自己分析していますが) 夜も寝ようとしても、鼻で呼吸ができずに、睡眠不足になる事もありました。朝、永遠に終わらないかもしれないと思えるようなクシャミの連発も、これがスギ花粉やヒノキの花粉による症状だと知ってからは、「いやだなー」「辛いなー」とは思っても、以前のような、強い不安感にさいなまれるようなことは無くなりました。

 

アレルギーならば仕方がない、自分の体質と付き合うつもりで、落ち着くまでじっくりと、休養がてら様子を見ていこうという気になれたのも、春先から初夏にかけての自分の体調不良の原因が、花粉による症状だと理解できたからだと思います。

 

花粉症はつらいです。決して愉快な事ではありません。それでもずっと悩んでいた自分の身体への不信感が、この花粉症という病名を認識することによって不安なく、治るまでの1~2か月間を平常心で過ごせるようになりました。だから私は、花粉症の症状は嫌ですが、花粉症という病名はいやではない、むしろ真実を知ることができて、感謝したい気持ちです。

 

そしてあらためて、人の身体と健康に携わる仕事をしている一人として、症状をなくす努力をすることと共に、原因を明らかにして「不安を取り去ること」が患者様の心の安定にどれだけ大切か思い知らされた気がします。

 

 

もう一つ、花粉症に感謝しなければいけないとおもっているのは、花粉症が本当にアレルギーの誤作動による「間違った反応」なのかという疑問です。

 

地方の山林の近くでスギの木に囲まれて生活していて、何の症状もなかった人達が、都会に移り住んだとたんに、花粉症になったというようなことをよく耳にします。

 

本当は、地方に住まれている人達の方が、スギ花粉に触れる機会も多いはずです。実際、花粉症の私が3月4月に郊外へ行くと、確実に花粉症の症状が悪化します。スギやヒノキの花粉がアレルギーの引き金になっているのは確かだと思います。しかし、なぜこのように、山間の杉の多い場所でもそんな症状が無かった人達が、都会にやってきて花粉症になってしまうのでしょうか。

 

花粉症の本当の原因は、スギやヒノキの花粉だけの単純なアレルギー反応ではなく、実は、バスやトラックのディーゼルエンジンの排気ガスが原因になっている可能性が高いと言われています。

 

ある「抗原」と結合することで、その抗原に対する「抗体」の産生が増加するような物質を「アジュバンド」といいます。ディーゼルの排気ガスに含まれているディーゼル排気粒子(DEP)が花粉と結合することで、アレルギーを起こすIgE抗体という物質の産生を増強することが証明されました。スギ花粉という抗原において、ディーゼルの排気ガスのDEPは「アジュバンド」としての作用をしていることが実証されたのです。

 

そしてこのDEPは、肺がんを発生させる微粒子であることが、国立環境研究所などの動物実験で証明されています。花粉症の最初の報告が1964年であることを考え合わせると、東京オリンピックをはじめとする高度成長時代の、日本の産業が活発化し始めた時期と合致してきますこのように、スギ花粉症の本当の原因は、スギ花粉とディーゼルの排気ガスの合体によるアレルギー反応だと考えられます。

 

花粉症の様々な症状は非常に苦痛で嫌なものです。しかしそれは、肺がんや喘息を防ぐための、身体の正しい免疫反応ではないか、そして、その正しい反応が、私達、花粉症患者は、人より少し過敏なだけではないかと思えるようになってきました。

 

このディーゼル排気ガスに含まれる「DEP」などの危険性を考えた時、その症状だけを止める事だけに奔走して、将来の肺がんや喘息のリスクを高めてしまう事の方が怖いと、私は思っています。もし、身体の正しい防御反応であると考えられるクシャミや咳、鼻水を、薬で止めようとするのならば、それと同時に、花粉に結合したディーゼルの排気ガスを、どのように身体に入れないようにするべきか、もっと真剣に考えるべきだと思います。

 

マスクや空気清浄器などを上手に活用して、身体への侵入を積極的に防御していく事が、本当の健康にとって重要であり、症状だけを抑えようとする現代のマスコミや世の中の流れに、私は少し不安を覚えます。

 

身体に本当に危険なものは、静かに時間をかけて蓄積していきます。

 

たばこや劣悪な環境にかかわっていない人たちが、原因もなく肺がんになってしまう症例が増加していること、そして肺がんが胃がんを抜いて、男性のがんの死亡原因の第一位になったことを考えると、私は花粉症による様々な、そして不愉快な症状も、考えようによっては、将来の重篤な疾患を未然に防ぐために、身体が一生懸命がんばってくれているのだと、思えるようになってきました。

 

何度も繰り返しますが花粉症の咳やくしゃみ、鼻水などは、大変不愉快で、いやな症状です。でも、これが私の命を守るために、必要に応じて発症している、「少し過敏だけれども」大切な症状だと考えた時、私は本当は、花粉症に感謝するべきではないかと、今あらためて思っています。

 

追記  

東京都立大学の研究で、高度な医療機関や医大が多く存在するおかげで、1960年頃から1980年まで平均寿命がトップだった東京が、1995年には男性が20位、女性が33位まで下がるなど、それまで上位にいた大阪や愛知、神奈川なども含め、大都市圏が軒並、平均寿命を下げています。そんな中、順位を上げたのは長野、福井、熊本などの地方都市で、さらにその差は開きつつあると言われています。

 

また東京都内の区市町村別のがんによる死亡率は、都心から離れるほど低くなる傾向があると報告されています。このような数字とディーゼルの排気ガスの増加が、全く関係ないとは思えません。

 

当時の東京都の石原知事が、ディーゼル車の都内乗り入れを規制し、大阪などの大都市圏も、それにならって法律や制度が変わったのは、本当に英断だと思います。

 

実際、最近のディーゼル規制などによって、排気ガスにおけるDEPの量は徐々に減少しているようです。これから先の、環境庁や厚生省の大気汚染に対する前向きな取り組みに、患者の一人として大いに期待しています。

 

ただ、抗体のしっかり作られた、私のスギ・ヒノキの花粉症自体が、もう少し軽く楽になってくれるのは、まだまだ先の事だと思います。