夏の上手な過ごし方~対処編~

  

春の終わりから夏にかけて、筋肉が引きつったり痙攣をおこしたりすることがよくあります。また、この筋肉の引きつりや緊張によって、関節に負担がかかり、関節自体を痛めたり、肩凝りや腰の張りなど、つよいコリ感を発生させてしまうこともよく見受けられます。更に、この筋肉の硬さが原因で、急に不用意に動いた時、筋損傷(にくばなれ、すじちがい)が発生することもあります。

 

この時期の筋肉の引きつりや痙攣の原因は、内科疾患(糖尿病などが有名)を除いて次の3つに大きく分けられます。

 

梅雨に入るまでの時期は、昼間の温度と朝方の最低温度の差が大きくなって、朝や動き始めに冷えによって、手足や体幹の筋肉にいわゆる「こむらがえり」が発生し、その不適切な対応により、筋肉を損傷してしまう問題。

 

汗をかき始める時期に血圧が一時的に下がり、血液循環がうまくコントロールできず、同じ作業をしても筋肉の疲労の回復が遅れ、強い張り感やダルさ痛みが発生する問題。(痛みだけなく血圧の低下はめまい・ふらつきの原因にもなる)

 

大量の汗をかくことによって、水分と共に電解質(塩分を含む)が奪われナトリウム不足によって、筋肉が痙攣しやすくなる問題。

 

以上の3つに対応するため・・・

 

の場合

冷えに注意する事。動物が季節ごとに、毛を増やしたり減らしたりして、環境に適応しているように、四季の中で暮らす私達人間も、実は自律神経によって血管の血の流れを調節しながら、冬用と夏用の身体を作っていきます。言い替えると、冬は寒さにうまく対応できるように身体を整え、逆に夏は熱を放出して暑さをうまくしのげるように、またうまく汗をかけるように血液循環を調節しています。このため、身体にとって「冷え」は、春から夏の方が大きく影響します。いわゆる「油断している状態」で冷やされてしまうからです。

 

5月の中旬から6月くらいになると、特に昼間の温度が上昇し、朝の最低気温と10℃以上違ってくると、朝の起きかけに自律神経がうまく対応できず、朝の冷えに対して血液循環をうまくコントロールができないで、このような現象が起こりやすくなります。

 

もし、こむらがえりなどが頻繁に起きる人は、昼間と夜間の服装の変化に注意して、寝る前に少し暑いと感じても、足元は冬用のパジャマなどを着用する方が良いと思います。足元の血行をコントロールするためにも「頭寒足熱」が重要で、氷枕をおすすめします。足元を冷やさないようにして、頭の熱が全身に回るようにコントロールすることで、少しは症状を防ぐことができます。

 

そのうえで下腿部から足先までの筋肉を強化する事で、足全体の血液循環を活発にすることが大切です。そのためには、歩行が一番効果的です。歩行によって、足の筋肉を作り直し、下腿部の血行を再構築することが根本的な改善に繋がります。

 
 
の場合

普段から汗をかくことに慣れておくこと。この時期に急に汗をかくことが多くなると、当然、身体に大きな変化が急激に起こり、その反応も大きく出てしまいます。普段からスポーツや家事などで、積極的に汗をかいておくこと、もちろん当院では前述の通り、生理的歩行で日常から励行することをすすめています。

 

また普段から自転車に乗る事が多い人は、その動きの特徴から下腿三頭筋(ふくらはぎ)の機能が弱化し、足から心臓にうまく血液を還流させることができにくくなるため、血圧のコントロールがうまくいかなくなります。また、椅子に長く座りすぎるのも同じく、下腿三頭筋がうまく働かず、足のむくみが強くなり、血液循環が滞って、やはり血圧のコントロールが不安定になります。

 

できるだけ、自転車に乗る時間や椅子に座る時間を減らし、歩くように心がけるだけでも、下腿三頭筋の筋肉ポンプの活動を促し、血流が活発になって血圧を安定させるように働きます。それでもこの時期、汗をうまくかけるように、手足や体表面の毛細血管が広がっていくために、血圧が少し下がるのは自然の正常な反応です。(反対に秋の終わりに冬の準備の為、外側の血管を閉めることで、血圧が上がっていくのも正常な反応です)

 

怖がったり、パニックを起こしたりせず、冷静に落ち着いて対応して下さい。もともと血圧の低い人や血圧を下げなければいけない人は、少し強く反応が出ますが、午前中は穏やかに過ごして、重労働や活発な動きは、午後からにした方が安全かも知れません。当然筋肉の引きつりや張り感だけでなく、強いめまいやふらつき・嘔吐感などを伴う場合は、他の原因も考慮して、病院で診察を受けられる事が必要です。

 

の場合

高校野球やサッカーなどで、試合中よく見かけるのが、足が引きつって動けなくなったり、ひどい場合にはタンカで運ばれる場面です。特に夏の暑い時期には、よく見られます。これは大量の汗をかくことによって、水分と共に塩分が失われてしまい、ナトリウム不足によって、筋肉が痙攣をおこしてしまうことが原因です。この場合昔から、若い学生や選手達にはよく塩をなめさせる事で対処していました。だからといって一般の普通の生活をしている人達に、塩を直接舐めることはあまりおすすめできません。

 

私達は、特別に腎臓や高血圧でお医者さんから止められている人を除いては、この汗をかく時期は、特に海産物や味噌・醤油・漬物などの発酵食品を充分取るようにすすめています。普段寒い時などは、健康の為に、塩分控え目の減塩食を食べている人達も、この時期だけは、私達の先祖が普通に食べていた味噌汁や味付け海苔、塩昆布や漬物などをしっかり食べて、塩分の補給をすれば良いと思います。

 

特に梅干は塩分と共に夏の身体に有効なクエン酸も含まれており、この時期には有難い食品です。これらの食べ物は、塩分だけでなく、最近の日本人が決定的に不足している日本人特有のミネラルやアミノ酸が豊富に含まれており、様々な効果も期待できます。

 
 
夏の暑い時期こそ、条件で選んで、よく管理された状態でたっぷりと汗をかくこと、そしてこれによって失われたナトリウムや電解質を、食事で充分補って筋肉の引きつりや痙攣を防ぎ、健康的に夏を過ごしたいものです。

 

熱中症を予防する実際の方法として当院では次の事をおすすめしています。                                                    

1、氷まくらと頭寒足熱

2、充分な睡眠

3、管理された状態で1日1回大汗をかく

4、食事に注意する

5、スケジュールを調整し季節に合った行動をする

 

1氷枕と頭寒足熱

熱中症になってしまった時は、病院や救急の対応でも当然体中をしっかり冷やすことが大切で、病院でも重症の場合、点滴や投薬と共に体中の冷却が行われています。しかし予防として考える時、身体中の広い範囲を極端に冷やすことは、おすすめできません。

当院の生理冷却療法を説明する時、必ず申し上げている通り、身体の一割以上の広い範囲を冷却すると、冷えによるショック症状が発生することがあります。熱中症予防の為といっても、長時間水に浸かったり、冷たい場所で一晩寝たりすることは、冷えによって逆に身体を弱らせてしまいます。(ジェルでできた寝具なども心配です)。

 

あくまでも冷やす方法は頭寒足熱で、氷枕によってオーバーヒートしている、視床下部とその周辺の温度を下げてあげると共に、後頚部を走る静脈群の流れをスムーズにして、新しい血液を流入しやすくすることで、脳の血液循環を改善・保持することが大切です。もちろんエアコンの中では、手や足は冷やしすぎないよう注意することも、熱中症予防を含む夏の健康維持にはかかせません。

 

2睡眠を充分取ること

前項で述べた通り、ストレスは熱中症の大きな原因になりますが、十分な深い睡眠は、ストレスに打ち勝つ為の重要な手段です。深い睡眠は、脳の疲労を取り去ってくれますが、深い睡眠に入る為には、メラトニンという脳の松果体という場所から分泌される脳内物質が大切です。このメラトニンがうまく分泌するためには、脳の中心部にあたる脳幹といわれる場所から分泌される、セレトニンという物質が重要な役目を果たしています。

このセロトニンが脳幹部からスムーズに分泌されるためには、脳幹部分の温度が下がることが必要で、興奮したり、イライラしたり、考えごとをしている時にうまく眠れないのはその為です。

正しい睡眠を充分とって、ストレスをうまく処理し、視床下部をはじめとする脳の機能を安定させるためにも、氷枕で脳温を少し下げる事で、セロトニンの分泌を促してあげることが重要です。最近、セロトニンのストレスに対する効果が、心療内科や脳の話題で取り上げられることが多くなってきました。

 

重症の場合はセロトニンに関連した薬がよく使われますが、軽症の間は、氷枕で脳温を下げるだけでも、効果的に分泌させることができます。昔から普通にある氷枕の、実は大変大きな効果を知る度に、先人の知恵の積み重ねには本当に頭が下がる思いです。
 

睡眠に関してもう一つ、昼寝は、もしできるならされた方が良いと思います。暑さの中で生活するだけでも、充分体力を消耗しますから、体力回復には大きな効果があります。但し、あまり長時間昼寝をしてしまうと、本当に夜間に寝たのと同じ状態になってしまうため、自律神経が誤作動を起こしてしまいます。

例えば、昼寝から目が覚めたとき、朝か昼かしばらく分からなくなるくらい寝てしまうと、起きた時身体は、もう一度朝の状態を迎えて血圧や血液循環の変化が起こり、ひどい場合には体内時計が誤作動を起こします。血圧の低い人や血圧の薬を飲んでいる人はそんな時、再び朝のけだるさや不快感のような感覚が起こることもあります。体内時計を守り、自律神経の正しいリズムを壊させないためにも、特別な事情がない限り昼寝は最大1時間くらいが適当だと考えます。

 

3管理された状態で1日1回大汗をかく

夏の暑い時期に、本来汗をかくことで体外に放出されるはずの深部のうつ熱が、エアコンや湿度によってうまく放出されない時、このうつ熱が火種となって熱中症が起こりやすくなります。最近は深部熱と言う言葉で、マスコミでもやっと取り上げられるようになってきました。このうつ熱(深部熱)は、熱中症だけでなく、様々な病気や体調不良の原因になるため、体の中に貯めないで常に完全に放出するようにする事が大切です。

 

熱中症が発生してからは、あまり積極的に汗をかくことは、場合によっては症状を悪化させることもありますが、まだ予防の段階で体力に余裕のある間は1日1回できるだけ大汗をかくことが大切です。

もちろん私達は、早朝や夕方以降の生理歩行をおすすめしています。

歩行することによって大汗をかくと共に、先程から述べている様々な歩行の効果が熱中症の予防に大いに役立ちます。それでもどうしても歩けない、あるいは毎日は無理といわれる場合は、例えば家事の時、時間を定めてエアコンを切って窓を全開にして首からタオルでもかけながら、掃除や食事の用意などでしっかり身体を動かしてみて下さい。今の時期ならそれでも充分汗はかけるはずです。

一通りたっぷり汗をかいたら、シャワーを浴びて服を着替えた後は、エアコンの中で涼しく過ごされれば良いと思います。1日1回大汗をかいて、身体の奥に残った熱と老廃物を体外に出してしまうことで、熱中症に繋がる火種を無くしておくことは、熱中症の予防として大切なことです。

 

4食事に注意する

先程の筋肉のひきつりの説明でも書いた通り、夏、汗をかくと、水分と共に塩分を始めとする電解質が大量に失われます。当然水分の補給が大切ですが、水分ばかり補給していると、相対的に塩分や電解質成分が薄められてしまい、様々な問題を起こしてしまいます。

スポーツをやる人や、若くよく汗をかく人はスポーツドリンクをうまく活用されるといいと思います。一般的な生活での汗の場合、スポーツドリンクは塩分が強すぎる場合があります。私達は先程述べたように、本当は少し塩分の多すぎた日本の昔からの食事が、実は夏の間は優れた健康食になると考えています。これらの食事は、塩分や電解質以外にも軟水が中心の日本において、それを補うために海産物から補っていたミネラルも豊富に含まれており、この機会に、これらの補給も含めて日本食の良さを見直してみることも大切だと考えています。

 

5スケジュールを管理し、疲労を残さないようにする

やはりどんな症状、どんな病気でも、その時自分の身体にどれだけの余裕があるか、言い換えればどれだけ弱っているかによって、その病気になるかならないかが決まります。抵抗力や免疫力などと呼ばれる自分自身の身体の余力を、どれだけ残しているかが重要です。過酷な天候のこの時期に、普段通りのスケジュールで用事や外出を思いつくままに入れていたら、当然体力は消耗してしまいます。

 

今のこの酷暑にあったスケジュールで行動するように、自分の予定を充分考えて全力投球ではなく、腹八分目の行動を心掛けることが大切です。特に、自分の好きなことやりがいのあることをやっていると、脳内麻薬(エンドルフィンなど)の働きで本人が疲労を感じていない間にも、着実に疲労は貯まっていきます。気付いた時にはもう手遅れで、発熱やめまい、意識障害など熱中症の症状が突然やってくるような場合もあります。腹八分目のスケジュールで、疲労を残さないようにして、常に身体に余力を蓄えておくように心掛けていくことが大切です。