腱鞘炎(ケルバン病)と弾発指(ばね指)

 <大切なこと>

1)ばね指(弾発指)やケルバン病などに代表される腱鞘炎は、腱をスムーズに機能させるためにある、潤滑油にみたされた「腱鞘」というトンネルに対して、腱が何らかの理由により腫れてしまうことによって起こる通過障害。

 

2)以前は安静加療の為に「固定」を施していたが、治癒後の職場復帰や、機能回復などを考えて、テーピングなどによる最低限のコントロールと、使った後の徹底した管理(スポーツコンディショニングの考え方を活用)によって、「使える手」に戻していく治療をめざす。

 

3)手指における問題の対応と共に、その使い痛みの原因になる神経や血流の問題を、その上のより中枢に近い部分から修正していく。

 

 

 

使い痛みとしてよく知られている指の障害に、ケルバン病といわれる腱鞘炎と弾発指があります。指を動かすための、多くの筋肉と腱が、複雑に走る指の骨の回りで、それがスムーズに動けるように、コントロールしている、「腱鞘」といわれる、文字通り腱の鞘が、重要な役割をしています。腱鞘は、トンネルのような構造で、内側に潤滑液を入れて、中を通る腱がスムーズに動けるように、そして、隣り合う多くの腱同士が接触しないように分離させるための、大切な働きをしています。

 

弾発指(ばね指)は特に、手のひら側の、腱が何かの原因で腫れることにより、その部分が腱鞘の出口や入口に引っかかってしまう症状です。これによって、指の動きが妨げられ、曲げにくい、伸ばしにくい状態になり、伸ばす時(曲げる時も)急にパチッとばねが弾けるような引っかかりの動きが起こってしまいます。もっと重症になると、痛くて動かすこと自体が困難になったり、本当に固定して動かなくなってしまうことも少なくありません。

 

この弾発指の原因になる、腱が傷む理由はいろいろあります。例えば親指の弾発指でよく見かけるのは、ハサミで硬い物を切ったり、長時間、たくさんの物を切ったりした時、ハサミの指穴の鉄の部分が、親指の屈筋腱に強く当たることで、その場所に炎症を起こして腫れを作ってしまいます

 

また、中指や薬指などの弾発指の場合は、細いひもや、プラスチック製の握りなどを使って、重い荷物を持ちあげたり、長時間持ち歩くことによって、その手のひら側の腱を傷めて、腫れを作ってしまうことも、引っ掛かりの原因になってしまいます。竹のほうきや、固い柄のついた道具などを、慣れない人が長時間使い続けることなども、弾発指の原因になる、腱の腫れを作ることがあります。

 

この弾発指が治りにくい疾患のひとつに数えられる理由は、この引っかかりができてしまうと、「腫れ」によって、腱と腱鞘の摩擦がより強くなり、動かすことによって、余計に、腫れ自体を大きくしてしまうことです。

 

もう一つの多発する腱鞘炎に、ケルバン病といわれる、親指の表側の方から手首にかけて痛み、腫れる症状があります。急によく手を使うようになった人や、出産後数か月のお母さんなどに多く発生する、痛みの強い治りにくい症状です。これも弾発指と同じように、親指から手首にかけての腱と腱鞘の摩擦によって起こっています。

 

以前は、この弾発指やケルバン病に対して、この摩擦による炎症の増大、持続を抑えるために、患部を使わないようにしっかりと固定して、炎症と腫れを抑えていくという方法をとっていました。しかし、今、原因になっている仕事や作業を、これからも続けなければならないのなら、そして治った後、仕事に復帰するつもりならば、このような長期固定の方法では、筋肉の弱化なども考慮に入れると、仕事に戻ったとしても、そう遠くない将来、再発する可能性は、充分考えられます。

 

曲接骨院では、患者様に痛めている手を使い続けてもらいながら、やってはいけない作業や姿勢だけを、最小限コントロールするとともに、本当の原因になっている、指の骨の連結のわずかな異常(位相差)を詳細に探し出して、これを整復することで、腱自体の屈伸時の余計なストレスを取り除き、それぞれの腱の緊張と、動きのアンバランスを修正し、正常な動きを取り戻すように努めていきます。

 

また、腱と腱鞘の癒着が発生しているときには、専用の、特殊な治療器具を用いて、安全に確実に、この癒着を取り除き、腱の繊維を健全な状態に戻すように対応しています。そして、それぞれの整復治療の後、特殊なテーピングを駆使して、動きを誘導、コントロールして、ある程度使い続けながら、(固定のようにすべての動きを止めるのではなく)治療と日常生活を両立させていくようにしています。

 

同時に、腱の炎症と「腫れ」に対しては、生理氷冷法を積極的に用いることでこれらの症状を抑えていきます。

 

腱鞘炎も弾発指も、結局は、腱と腱鞘の間の動きが悪くなって、摩擦が発生することによって起こる、熱性炎症です。確かにお風呂や、温めることによって、一時的に動きやすくなりますが、温めた後、そのままにしておくと、炎症反応は強くなり、腫れがより大きくなって、症状本体は悪化してしまいます。

 

固定して動かないような場合は、機能訓練を行うための、ウオーミングアップとして温熱療法を取り入れることはありますが、その場合でも最後はクールダウンとして、炎症を抑え、腫れを増大させないために、必ず氷冷法を行っておくことが大切だと考えています。

 

また、固定せず、使いながら治していくという方法を続けていくためにも、今日の作業の動きの中で起こった、摩擦による発熱を、氷冷法によって「確実に取り除いておく」ということが、重要であるということを解ってください。

 

 また、腱鞘炎や弾発指が治りにくい原因、あるいは、その場所に、何故、その症状が発生したかを考えた時、私達は、その患部を支配する、神経と血液の流れに着目しています。検索型の知覚検査や、可動域検査、叩打検査などによって、頚椎からの神経支配の影響と、手関節部における、神経と血管の通過状態の問題を探求し、専用器具を用いてこの問題を整復していきます。

 

そのうえで、必要があれば、これらの問題のもとになっている、脊柱や骨盤を含めた姿勢バランスと、肩、ひじを含めた上肢全体の動きを確認して対応し、それらを改善、安定させていくことによって、その腱鞘炎や弾発指を作り出している「根本原因」を、取り除いていくように努めています。

 

これらの血流や神経の問題は、その患部のメンテナンス能力や、再生機能を落とし、同じ作業をしていても、症状が発生しやすくなり、起こってしまった場合でも、早く治るための妨げになるため、できるだけ完璧に排除して、正常な状態に戻しておくことが必要だと考えています。それが「使い痛み」といわれ、治るまでに長い時間のかかる症状の代表に挙げられる、腱鞘炎や弾発指を、一日でも早く解決するために必要な手段だと、私達は、考えています。