外反母趾について考える

<大切なこと>

1)外反母趾の原因は靴の問題だけでなく、その人の姿勢バランスが本当の原因。

 

2)立位バランスにおいて主に横方向のバランスに問題が起ると、これを補正するために、足の前の部分を広げる開扇足と、重心が前傾することによって発生する、足の横アーチの潰れによる足幅の増大。

 

3)外反母趾による変形の強弱と、痛みの強さは関係がなく、その時の局所の炎症の状態が問題。

 

 

 

いつのまにか、足の親指が曲がってしまう外反母趾、痛い場合と、痛くない場合があって、気がついたら、大きく変形していたというようなことも、珍しくありません。

 

外反母趾は一般に、ヒールを履いたり、狭い靴を履いたために、起こってしまうと言われています。しかし、日頃、ヒールを履く仕事をしていても、外反母趾になっていない人もいますし、いつも着物で、草履ばかり履いているのに、ひどい外反母趾になっている人も、時々見かけます。

 

外反母趾の原因は、履物だけではないのです。

 

もちろん、履物による影響は、考えておかなければならない要因ですが、もっと根本的な問題が、外反母趾の本当の原因になっていると、私達は考えています。外反母趾を発生させる靴以外の原因として、主に、2つの要因に注目しています。

 

1)直立、歩行の中で、横方向のバランス機構に問題が生じた時、これをカバーするための開扇足

2)当たり前の老化やそのほかの理由によって、重心が前に変化したために起こる、足の横アーチの潰れ

 

1)人間は重力の中で、それに逆らって、不安定な状態(例えば約160センチの高さのものが、25センチ四方位の狭い底で立っている)でありながら、これをバランス的に安定させて、自由に動き回っているという、不思議な形態をしています。

 

子供の時から、当たり前にそうしているために、特に疑問に思いませんが、普通ならば、安定した姿勢を保つためには、他に動物のように、四本脚にするか、物体ならば、箱や壺のように、三脚以上の脚部か、高さに比べて広い底の部分が必要になります。

 

しかし人間は、狭い底の二本の足で、普通に立ち、自由に歩いているのです。

 

これを達成させるためには、平衡覚をはじめとする、高度な脳神経系のコントロールと、絶妙の制御された機構的安定が必要だということは、何度も述べてきました。そして普通の人間はこれを無意識に、そして完璧に行っています。しかし、例えば、この平衡覚や機構的安定に何らかの問題が生じて、この人間特有の見事な直立二足歩行がうまくできなくなったとしたら、様々な代償作用(かばい、補うこと)がおこります。

 

そして、その一つ、足の「開扇作用」があります。

 

人間の足の部分は、素早く移動するために、それぞれ片方ずつ、細く縦長にできています。それに較べて、アヒルやダチョウの足は、同じ二足歩行でも、人間と違って、高さに比べて広い、大きな足を持っています。もともとの進化の過程がちがうため、形が違うのは当然ですが、アヒルやダチョウの足は、人間と違って、足という底の部分を広くすることによって、安定と移動をたもっているのです。

  

先ほど述べた通り、人間は、複雑な神経制御や、高度な反射機構によって、立位と歩行をコントロールしていますが、もしこれがうまくいかなくなった場合、特に横方向の安定性に問題が発生して時に、鳥たちと同じように、底の面積をひろげて、安定を保つように変化していきます。これが「開扇足」といわれる形態で、足の指先を扇のように広げて、問題が起こったバランス機構をカバーしようとする「正しい」反応です。

 

このとき、大昔のように裸足であれば、何の問題もなく、広がるだけですが、現代のように靴や履物を履いていることによって、広がろうとする母趾は、靴の先端のカーブによって止められて、結果として、外反母趾が起こってしまいます。

 

例えば、出産の後の骨盤環の不安定や、外傷による起立バランスの失調、様々な疾病や、老化などのよって、平衡覚や高度な反射制御機構に問題が起きた場合、これをカバーして、人間としての直立二足歩行を守るために、その代償作用として開扇足が起こりやすくなります。

 

 

 

2)普通の老化によって起こる、当たり前の前傾姿勢によっても、重心が前に移動して、「つま先歩行」になり、足の前の開きを作って、外反母趾の潜在的な要因を作ることになります。

 

本来、歩くときは、踵からついて、足の裏からつま先に体重が抜けていくのが普通ですが、前重心が強くなると、つま先から接地することになり、この繰り返しの応力が、足の指の根元にある横のアーチ(土踏まずの縦のアーチとは違う)を、徐々に潰していくことになります。アーチが無くなった足の横幅は、広がって、開扇足と同じように、やはり靴に、押し付けられることになります。

 

この状態になると、前述の場合と同じく、一番内側にある母趾が靴の先端で外側にもっていかれることによって、外反母趾が作られてしまいます。

 

この前重心による、つま先歩きの問題は、このように、普通の老化によるものだけではなく、歩くことが少なく、自転車や車に頼ってばかりいる生活や、座ることが中心の生活などでも、骨盤環の離開によって、若い人たちでも起こる可能性はあります。

 

 

 

そして、この横アーチの問題では、本来、地面につくことのない、2番目や、3番目の指の根元の部分が、潰れたアーチのために、地面に接触することによって、外反母趾だけでなく、ウオの目やタコといわれるような足の裏のトラブルや、強い痛みを伴うモートン病などの原因を作ることにもなります。

 

このように外反母趾は、靴だけの問題ではなく、その人が元々持っている足の問題と、その原因になっている、姿勢バランスの問題が、大きく影響しているということをわかってください。

 

外反母趾は、最初に述べた通り、痛い場合と、痛くない場合があります。

 

姿勢や生活習慣によって、長年にわたり、徐々に穏やかに発生した場合や、変形が終わり、固定して、安定している場合には、痛みはほとんどありません。(膝関節の変形や、手指の先に起こるヘバーデン結節なども同じ)しかし、何らかの理由による急な症状の進行や、今現在、変形が進んでいる場合には、強い炎症とともに痛みが発生して、治療が必要になります。

 

曲接骨院では、外反母趾の治療として、炎症を抑えるための氷冷法とともに、関係するそれぞれの関節の穏やかな整復処置と、それを維持するためのテーピングによって、対応しています。

整復の考え方として、外反している部分を戻すのではなく、指全体が変化し、回旋しながら、その状態が作られていることを考慮して、また同じ力が加わる第5趾(内反小趾)側の回旋も視野に入れながら、足関節まで含めた、足全体の問題を考えた整復をしていきます。 そして、その状態を維持、継続させるための、テーピングを行います。

 

この時、大切なのは、外反している指先ではなく、開いて、回旋している根元の骨(中足骨)を、まとめることによって、アーチを再生し、その結果、外反を減らしていくように考えて、貼付しています。そして、このテーピングを、患者様御本人にも指導して、自宅でも継続的に施行していくことによって、より効果を上げるように努めています。

 

 一時期流行した、外反した指先の部分に、ゴムやシリコンで出来た、装具を挟み込むような処置は、一時的に指が戻ったようにみえても、この指を開き戻す力が、逆に、指の根元の骨の開きを大きくしてしまうことで、開扇状態をより強くすることになり、時間がたてば、結局、外反は以前より大きくなってしまいます。

 

私達は、外反した母趾の指先よりも、開扇した根元の部分を、どう抑えて安定させていくかということを中心に、治療を行っています。その上で、もし平衡覚や起立姿勢、重心の前傾などの、外反母趾の潜在的な原因になる問題が、対応できるレベルで残っていれば、できる限り、それらを取り除いていくように努めています。

(年齢や、体質によって、対応できない場合もあります。)

また同時に、外反母趾の治療に関しては、靴に対する考え方も重要になります。外反母趾の場合、痛みと指の変形に対して、ついつい大きめの広い靴を選ばれる傾向があります。しかし、楽だからと言って、あまり不相応な広い靴を履くことで、更に開扇させる余地を作ってしまうことになり、より指が開き、また大きく広い靴によって、足が前方に詰まってしまうことで、より外反状態が強くなってしまう可能性も、考えておかなければいけません。

 

私達は、素材の柔らかい、当たりの痛くない、「ちょうどいいサイズ」の靴をひもなどでしっかり調整して、履かれるようにおすすめしています。(当院では靴の問題に関しては、特別に細かく相談に応じています。)

 

 

追記

外反母趾において、時々、隣の指に乗り上げてしまうような変形や、足全体の形が変わってしまうような、強い変形を見ることがあります。

 

患者様に、それぞれ問診の時にお尋ねするのですが、多くの場合、出産後しっかりとした安静、療養の期間をとっておられなかったと、答えられています。昔の産婆さんの考え方の中に、産後、腹帯をして4週間から6週間の安静をさせるということがありました。

 

私達は、昔の産婆さんの知恵と技術は、人種の違いによる出産形態を、うまくカバーするために、蓄積された経験にもとずいた、日本人独特の素晴らしい手段であると考えています。骨盤の大きさと産道の幅の違いによって、日本人の場合は、産後、特に大きなダメージが残ります。

 

出産時、リラクシンなどのホルモンの作用で、恥骨結合は大きく開きます。この時、同時に、全身の関節のじん帯も緩むことになります。この骨盤の恥骨結合や、仙腸関節をはじめとする、全身の関節が、元通り安定し、活動できるようになる、この約6週間の腹帯(傷んだ骨盤の包帯として)と、穏やかな安静生活が必要だったのです。

 

これらの関節が、機能的に、元に戻るのを待たずに動き出してしまうと、関節の不安定を抱えたまま、元の生活に戻ることによって、産後の肥立ちといわれるような、様々な問題を残すことになります。しかし多くの場合、筋肉がしっかりカバーしている若い間は、問題が表に出てしまうことはありません。

 

ところが、更年期を過ぎて、当たり前に誰でも、骨や関節軟骨に変化が起きるころに、このような関節が不安定なまま、年を重ねていった方々は、一般的な老化、変形の場合より、極端に大きく変化することになります。

 

先に述べた、隣の指に乗り上げてしまうような外反母趾や、大きく指先が変形したヘバーデン結節、極端な膝の変形によるO脚など、普通ではあまり見られないような、強い変形状態になってしまうことも、起こってしまいます。実家の都合や、嫁ぎ先の事情などによって、産婆さんに注意されても、産後の管理ができなかった多くの方達に、このような症状が現れているのは、残念なことです。

 

ただ最近、西洋の出産のやり方が日本にも入ってくることで、産婆さんの素晴らしい「人種に応じた」出産管理が軽視され、環境に問題がなくても、産後に安静期を取らず、動いてしまう傾向が強くなってきて、心配しています。

 

更年期以降も健康な身体と健康な関節で、元気に過ごしていただくためにも、もしできるなら、産後の関節の不安定が落ち着くまでの「養生」は、しっかり行うべきだと、私達は考えています。