圧迫骨折について考える |
<大切なこと>
1)圧迫骨折は、手足やほかの部分の骨折とはちがった痛み方、治り方をする。そして正しく対応すればきちんと治る症状だが、曲がった部分は残念ながらもとには戻らない。
2)圧迫骨折は、若い人たちでも普通に起る症状で、骨質の違いから脊髄を守るための衝撃吸収作用とも考えられる。
3)圧迫骨折は、一度発生すると再発の危険が高まるため治療中、回復後も生活における十分な注意と再発予防の考え方が必要。
いわゆる腰周辺の痛みの中でも、圧迫骨折は、治るまでの時間と痛さに関しては、本当につらい症状の代表だといえます。特に、寝るとき、起きるときの変化のよる激しい痛みが、主な症状になります。
以前は、更年期の閉経によって、ホルモン状態の変わる女性に、主に起こる症状でしたが、最近は、前立腺や様々な疾患に対するホルモン療法が発達してきたために、男性でも、注意しなければいけない疾患になってきました。
背骨(脊椎)の傾きによって、それをつないでいる椎間関節の離開と、その炎症、周辺の筋肉やじん帯に対する、緊張と弛緩状態の変化、神経、血管の張力の変化などによって、強い痛みが発生し、この部分が大きく動揺する、寝るときや起き上がるときの姿勢を変える動作の時が、最も痛みが強くなります。
このように、圧迫骨折の痛みは、一般の骨折に較べて痛みの出方が特異的で、骨折そのものの痛みが中心ではないため、安静の程度や、動きの状態によって、必ずその日に痛みが出現するわけではなく、数日たって始めて痛みが発生してくることも珍しくありません。(いつのまにか骨折といわれる原因かもしれません。)
普通の骨折ならば、4週間から6週間くらいで骨が癒合して、徐々に治っていきますが、圧迫骨折の場合、「周辺の組織の変化」による痛みのほうが、影響力が大きいため、この変化に身体が順応し、周辺が安定を迎えるまで、長期間痛みが続きます。
高齢者の圧迫骨折では、多くの場合、痛みは寝起きの姿勢変化を中心に、普通3か月くらい持続します。そして周辺の組織が順応して落ち着いてくると、徐々に寝起きの強い痛みは軽減、消失し、全体の筋力が戻ってくる約半年くらいで、受傷前のほとんどの動作と生活が、可能になります。この時点で圧迫骨折としては治癒となりますが、残念ながら、姿勢の曲がりは戻ることはありません。そして以前より少し曲がった状態は、身体の重心線が今までより前を通ることになり、椎体の前側をつぶしていく、圧迫骨折の特性から考えると、それ以降の再発を起こす確率が、さらに高くなっていくということに、注意しなければいけません。
圧迫骨折は、本来、身体の重心線と生体力学の関係から、普通の転倒や、重量物を持つことによって発症する場合には、腰椎と胸椎の境の部分、第1腰椎と第12胸椎を中心に起こります。転倒の角度や、繰り返す再発によっては、第2、3腰椎や,第9、10胸椎レベルまで骨折する可能性があり、特に忙しい人や頑張ってしまう人は、痛くても無理をしがちで、何か所も圧迫骨折を再発して、二つ折れの姿勢になったり、本当に寝たきりになってしまうこともあるので、きちんと治るまで無理は禁物です。
元々圧迫骨折は、激しいスポーツや転落事故などによって、若い人たちにでも普通によくみられる症例です。しかし若い人たちの場合は、筋肉がしっかり機能することで、姿勢や周辺の変化が大きくならないため、長期の強い痛みが出ることは少なく、意外に本人が骨折に気が付いていない(打った場所や、転落した時のけがのほうが痛いため)ことも少なくありません。
実は、圧迫骨折を起こす脊椎の「椎体」という部分は、海綿質(スポンジ質)と言われる柔らかい骨でできています。それに較べて、その後ろにある椎弓や棘突起などの脊髄を入れる場所は、ち密質といわれる固く強い骨でできています。
これは、しりもちや転落などの強い衝撃を受けた時、柔らかい「椎体」部分をつぶすことでクッションにして、後ろを通る、大切な神経の集まりである脊髄を守るための、よくできた身体の防御システムだと考えられます。尻もちや転倒によって、簡単に脊髄損傷を起こして、車いす生活にならなくてもいいように、備えられた身体の優れた構造なのでしょう。
圧迫骨折を疑われる状況になった場合、病院や整形外科において、詳しい検査と、痛みに対する即効的な対応が優先です。そして、私達が相談を受けた場合は、入院されていないのであれば、普通は、10日から2週間位の安静療養をされるようアドバイスします。(本人が痛みに強かったり、気持ちがしっかりされている人なら、もっと早く起こしていくことも可能です。)
最初は先ほど述べた通り、寝返りや寝起きの時に、激しい痛みが起こりますから、炎症に対応しながら、安静にすることが、最も大切です。
その後、炎症が落ち着き始める2週間目くらいから、徐々に座る練習を始めるように説明します。
座る練習を始めた当初は、本当につらく痛い状態で、起き上がるだけで30分もかかってしまう場合もありますが、座ってしまうと、案外痛みは少なくなります。
この時に、「やさしい家族の方」がいると、痛がる大切な人に対して、無理をさせないよう、つらい思いをさせないようにすることで、残念ながら寝たきりを作ってしまう確率が高まります。反対に昔は、一人暮らしの人が圧迫骨折を起こされた場合、こちらが驚かされるようなスピードで元の生活に戻られ、また元気に来院されることが多くありました。誰の助けもなく、何でも自分一人でやらなければいけない環境が、この場合は良いほうに働き、痛くても起き上がり、仕方なく動いている間に、自然に身体の順応が起きて、治ってしまうのだと考えられます。(残念ながら、介護保険が始まってから、このようなことを見ることは、無くなりました。)
起きて座る練習を始めたら、徐々にその時間を増やしていくようにして、起きている間の痛みが少なくなったら、ゆっくりと歩き回る練習も併用して行います。これによって、長く寝ていることによる、肺の機能低下や、筋力の衰え、認知症の危険も防ぐことができます。
そして普通、大体3か月位たって、先ほど述べたように、寝起きの痛みがほとんど消失したら、少しずつ生活を戻していきます。しかしこの段階で急に無理をすると簡単に痛みが発生したり、圧迫骨折の再発を起こしてしまうため、(この療養中に、筋力が弱ってしまったことを忘れないでください)気持ちの先走りを抑えて、充分慎重に行動するべきだと思います。
特に、圧迫骨折が落ち着き始めた時に、注意しなければいけないことは、
2)中腰(しゃがみ込み)姿勢を長く続けること。
3)長時間バスや車に乗り続けることです。
重量物は当然、20キロや30キロの物を持とうとすることはないと思いますが、2~3キロの物でも長時間、あるいは何個も繰り返し持つことによって、重量物を持つのと同様の影響力が発生するので注意が必要です。
中腰やしゃがみ込みの姿勢は、患部を守っている背部の筋肉、特に深層の筋肉を疲労させるとともに、その姿勢によって、骨盤環の変化が起きることで、脊椎の安定に悪影響を与えるため、避けるべきです。
そして意外に知られていないのが、車の振動による悪影響です。車の振動は、高周波振動といわれる特殊なもので、人間の身体に蓄積しやすく、特に車やバスに座った状態で縦に入る高周波振動のエネルギーは、滑らかに連続する背骨の中で、急に角度を変える圧迫骨折の個所に蓄積します。これがその場所に熱を発生し、炎症の原因を作っていきます。長い間痛み、辛かったおばあちゃんが元気になって、少し動けるようになったので、優しい息子さんやお孫さんが、慰労や快気祝いを兼ねて、少し遠くの温泉へ車で連れて行って、帰ってきたとたんに、再び強い痛みが再発して、動けなくなるというようなことも、実際起こっています。
以上のように、寝起きが楽になる3か月から、元の生活に戻れる6か月くらいまでは、このようなことに気を付けて、特に慎重に行動することが重要です。そして、身体が本当に順応し安定してから、やらなければいけないこと、やりたかったことを「少しずつ、徐々に」始めるようにしてください。
曲接骨院では、依頼を受けた場合、圧迫骨折を起こす原因となった転倒や外力の影響の痕跡を確実に探究し、これを患者さんの今の状態を考えながら、穏やかに整復することによって、土台の部分を安定させて、圧迫骨折による「局所の傾き」以外の、柱の傾きの原因になる問題を除去します。
その上で、骨折し、傾いた脊椎の、「椎間関節」の整復処置と、それを保護するためのテーピングを施し、その周辺の炎症を、軽減していきます。その後、一定の安定を迎えたら、少しでも背骨の曲がりを減らすために、特殊な器具による、穏やかな脊椎の治療を行います。このような処置を施すことで、療養中の痛みをできる限り少なくして、3か月、6か月の療養期間を、少しでも短くできるように対応しています。
圧迫骨折は、治るまで本当に時間がかかる、痛い、辛い症状です。それでもよほど悪い条件がない限り、必ず治る症状です。少し姿勢の問題は残りますが、田舎の農家のおばあさんが、少しくらい背中が曲がっていても、元気に畑仕事をされているのを見てもわかるとおり、希望を捨てないで、上手な安静としっかりとした運動と、正しい日常生活によって、一日も早く元の、元気な生活に戻っていただきたいと思います。そしてそのためにも、今述べたような期間(時間)が基本的に必要であり、あせりや極度の不安を持つことなく、現状をしっかり理解して、回復に努めていただきたいと願っています。