風邪と黄砂とPM2・5

年々、お隣の国の空気汚染による影響が、深刻になってきているようです。

「風邪で長い間ひどい目にあった。」「のどが痛くてひと月も咳が止まらない。」「くしゃみや鼻水が続いていて、ティッシュが離せない。」など、いろいろな訴えをよく耳にするようになりました。

しかし、多くの場合、熱が出なかった、あるいは微熱があるかないかという程度で、はっきりした発熱はないようです。

 

このように、風邪と診断されているけれど、熱はなく、それ以外の症状が長く続いてしまうようなタイプの症状の方々が、ここ数年、非常に多くなってきたような気がします。私達が直接、治療にかかわるわけではありませんが、接骨院の患者様から、このような体調悪化の報告を受けるたびに、何か新しい問題が起こってきているような気がしてならないのです。

 

いわゆる、感冒といわれる本来の風邪症候群は、インフルエンザも含めて、ウイルス感染による症状ですから、基本的に発熱します。健康な身体であれば、ウイルスを殺し追い出すために、体温を上げることで免疫力を発揮します。ウイルスの種類によっていろいろあるようですが、普通は、38度以上の熱を発生させることで、ウイルスを処理していきます。人間の身体は、たんぱく質の凝固限界である、41度まで耐えられますので、発熱すると本人は強い倦怠感を感じますが、身体にとっては充分許容値の範囲です。そして、3日から5日ぐらいでウイルスを処理して、熱が下がって治っていく、というのが普通の感冒の経過だと思います。

 

しかし先ほどのように、ここ数年、風邪といわれる症状の中に、発熱がなく、咳やのどの痛み、くしゃみや鼻水だけが長く続き、ひどいときには1か月近くも治らないという患者さんが増えてきました。3週間から1か月続く症状は、普通は何らかの炎症反応かアレルギー反応の可能性が高く、感冒のウイルス感染なら症状は強くても、そんなに長く続くことはないと思います。

 

本当は、このような空気の汚染による炎症やアレルギー反応と本来の感冒はしっかり分けて、養生の仕方などを変えるべきだと思います。感冒なら、ウイルスと必死に戦っている身体に対して、それを邪魔しないように、穏やかにできるだけ安静にして、数日間を過ごすのが、正しい養生だと思います。

反対に、もし空気の汚染による、炎症やアレルギー反応による症状ならば、長い時間がかかってしまうことも考慮して、無理をしない程度に穏やかに、でも「普通の生活」をするほうが良いと思います。症状はつらいですが、それにこだわりすぎて、自分の生活を極端に変えてしまうより、当たり前の日常生活を続けながら養生するべきだと思います。

 

現在のところ、この空気の汚染に対する反応に伴う症状に対して、確立された病名や、傷病の認定がされていないため、普通の喉頭炎や咽頭炎,風邪症候群としての扱いになるのは、仕方がないと思います。

 

花粉症においても、50年位前から一部では知られていた、春や秋に限って発生する特有の症状が、風邪と区別され、花粉症として認定し、一般医療の中に組み入れられるまで数十年かかったことを考えると、この迷惑な空気汚染による症状も、病気として認定され、本来の感冒などと区別して扱われるまでに、まだ当分の間、時間が必要だと思います。

 

ただ私達が危惧しているのは、このPМ2・5は非常に毒性が強く、極力、身体の中に入れないようにしなければいけない物質だということです。ご存知の通りその粒子の細かさのよって、呼吸器系はもちろん、血管から循環器系にも侵入し、また胃腸などの消化管のも大きな影響を与えるようです。

 

このため肺がん、肺炎、肺気腫、喘息などの原因を作るのはもちろん、心筋梗塞や脳梗塞、消化器系の様々な疾患の原因にもなる可能性があると、報告されています。また中国では、妊婦の人たちの遺伝子にも影響を与え、奇形児の発生率が高まっているという調査報告もあります。(一時期、中国のネットにキャスターの女性のPМ2・5の被害に関するブログが上がっていましたが、なぜか消えてしまいました。)

 

また黄砂は、ゴビ砂漠などの中国内陸部の砂漠地帯から飛んでくる、砂の粒で、昔は春がすみやおぼろ月などの風情を作る、ただの自然現象だったのですが、最近の砂漠化で、その量が増しているのと同時に、現在の黄砂は、放射性物質をはじめとする、様々な汚染物質を含んでいると、報告されています。

 

そのうえ黄砂はその飛来する途中で、風向きによって、北京や上海などの都市部の上空にたまったPМ2,5を抱え込んで、一緒に飛んで来ることが知られていますし、また11月に入ると、中国の多くの家庭で石炭ストーブが使われ始めるために、ただでさえ飽和状態の大気汚染が、更に濃度を増して、日本に飛んでくることになります。

 

そして、一般的に北京の10分の1が、西日本に飛んできているといわれています。(関東には、砂漠の砂嵐の時期や、偏西風の特別な動きがない限り、中部山岳地帯を超えて飛んでいくことほとんどなく、マスコミでもあまり話題になりません。)

  

もし、今のそのクシャミや咳、のどの炎症が、PМ2・5や黄砂を体内に入れないために、反応しているのであれば、症状を止める治療は、逆にこの毒性の強い物質を、身体の中に入れてしまう危険性を作っているということを、考えておかなければいけません。これらの症状が、健康な人の(そして少し過敏な人の)防御機能として、あたりまえの大切な反応だと考えた時、症状を抑えることより、どのようにして、この毒性の物質を身体の中に入れないようにするかを考えるのが、先決だと思います。もちろんこれは極端な意見であり、嫌な症状を早く取り去ることを、反対しているのではありません。ただ防御作用としてのこの症状を抑えるのであれば、どのようにして侵入を防いでいくのかを、まじめに考えてほしいのです。

 

もし、症状を止める場合は、外出する時には、マスクが絶対必要です。PМ2・5は非常に粒子が細かいので、せめてウイルス対応のマスクくらいは、用意しなければいけません。そして自宅や、できれば職場などの長時間、居続ける場所には、性能のいい空気清浄機を置くようにして、そこにいる間はマスクを外すようにしてください。(マスクには、スムーズな鼻呼吸を妨げるとともに、脳の温度が上昇してしまうなどの悪影響もあります。必要のない場合は外しておくほうが良いでしょう。)

 

これらの化学物質や、電磁波などのサイレントキラー(静かな危険物)と呼ばれるものは、今すぐに何らかの症状を起こすわけではありませんが、長期の蓄積によって、その悪影響を現わしてきます。このため、本当は、私達中高年より、若い人たちや、子供たちのほうが、大きな影響を受けることになります。

 

しかし、子供たちは、なかなかマスクをしてくれませんし、学校や親の見ていないところでは、外してしまうことも多いと思います。これらを考えた時、子供たちに関しては、その咳やクシャミ、鼻水は、将来のその子の身体に起こり得る、大きな問題を防ぐべき「最後の砦」だと考えることができないでしょうか。

少々乱暴な話ですが、もしこの話に、お父さん、お母さんが御理解を示していただけるなら、このような症状が出た時、まずお医者さんの診察を受けて、「他の病気でないこと」を確認して、以前からの身体的リスクがなく、現在発熱もほとんどなく、くしゃみや咳、鼻水などの症状だけで、普通に元気にしているのなら、症状だけを止めることは考えず、毒物を体内にため込まないことを優先するように、黙ってそのまま見守るのも、その子の将来に対しての、ひとつの正しい方法かもしれません。

 

このような、空気汚染による反応は、現地の状況や偏西風の向きによって、急に濃度が上がった時、突然発症します。そして2~3日で消える場合もありますが、アレルギー反応や、炎症が起こった場合、長ければ3週間以上続く事も珍しくありません。

 

しかし、それが空気汚染に対する反応ならば、それは決して病気ではなく、当然の正しい防衛反応です。例えば、催涙ガスやこしょうを撒かれた時には、咳やクシャミが出るのが当たり前の反応で、もし何の反応もしなかったら、そのほうが異常だと考えられます。当然、過敏性と反応の出方には個人差がありますが、この空気汚染に対する、咳やクシャミ、のどの炎症は、当たり前の身体の防御反応であることを、理解してください。

 

このような症状が出た時、病院で診察を受けて、ほかの別な病気ではなく、風邪や鼻炎の診断が出ていたら、症状を止めることよりも、汚染された空気を、できるだけ身体に入れないようにすることを、優先して考えるようにしてください。もし様々な理由で、症状を止めなければいけない場合は、先ほど述べたように、マスクや空気清浄機を活用して、万全の対策をお願いします。

 

そして将来の、肺がんや肺気腫、ぜんそく、或いは、心筋梗塞や脳梗塞、胃腸の重大な病気などの原因になる物質の蓄積を、どう上手に防いでいくかということを、しっかり考えておいていただきたいと思います。