寝違いについて考える

<大切なこと>

1)頭の重さがスムーズな首(頚椎)の動きを作っている。寝た状態では頭の重さがかからないため、後頭部や頚椎の周りの筋肉が、これを補っている。

 

2)寝ちがいは、寝ていることだけで起こるのではなく、頚椎を支える筋肉が強く疲労することによって起こる。そしてそれは様々な原因が考えられる。

 

3)軽い寝ちがい状態を単なる肩凝りと誤って、マッサージなどの強い刺激を加える事で、症状を急激に悪化させてしまう事がある。

 

 

 

 

寝ているだけで本当に首が痛くなるのか?

 ダルマ落としというおもちゃがあります。4~5個のカラフルな積み木の上に、少し大きいだるまさんの積み木が乗っています。横から木槌で任意の積み木たたくと、その上下の積み木は崩れないで、そのたたいた積み木が、横へ飛び出します。これは、上に乗っている、だるまさんの形をした大きな積み木が、重しになって、下の4~5段の積み木の間の空気を圧縮することによって、そこに潤滑性が生まれて、摩擦の少ない状態になるために起こるための現象で、もし上のダルマが乗っていなかったら、横からたたくと、全体に崩れてしまいます。

 

頚椎(7個ある首の骨)もこれと同じく、起きているときは、重い頭がい骨が一番上に乗っていることで、それぞれの椎骨をつないでいる、左右の椎間関節の中に入っている、ヒアルロン酸由来の潤滑液が圧縮され、向かい合う関節の面全体に広がることでスムーズな動きを作っています。頭の重さが、肩こりやくびの痛みを起こしているという考えもありますが、むしろ、頭がい骨の重さがあるために、頚椎をはじめとする椎骨の正常な動きが、維持されているのです。

 

ところが横になって寝てしまうと、頭がい骨の重さがなくなってしまうため、頚椎はそれぞれの関節でしっかりつながることができず、すこし不安定になってしまうことで、潤滑液もうまく働きにくい状態になってしまいます。しかしこの時に、頚椎周辺の筋肉がしっかりと頸椎全体を包み込んで、安定させることによって、(おもちゃ屋さんで売っているダルマ落としが入った赤い網の袋のように)頭の重さがなくても、椎間関節をしっかりとかみ合わせることによって、スムーズな寝返りができるように、自然に無意識の中で働いています。

 

寝ちがいという症状は、この寝返りの時に何らかの理由によって、くびの回りの筋肉が頚椎をうまくまとめて包み込むことができなかった時に、起こってしまう症状です。寝ちがいの本体は、第一頚椎と、頚椎の下にある第一肋骨のところで偏位が発生することによって起こる急性炎症です。

 

寝返りする時に、特に重たい頭がい骨の回転に引っ張られて、大きく動いた第一頚椎が、筋肉のコントロールが不充分な状態で、この第一頚椎独特の骨のつながり方のために取り残され、位相差を作ることによって、正常な動きが妨げられて炎症を発生させてしまいます。そして頚椎の土台の部分にある第一肋骨が、胸郭の変化に伴う前斜角筋などの緊張によって、引き上げられることで、あの寝ちがい特有の、激しい痛みの症状が発生します。(第一頚椎の偏位だけで、寝ちがいの激しい症状を起こすことは少ないです。)

 

寝ちがいの症状は、多くの場合、大変激しい痛みとともに、頚の自由な動きが妨げられ、ひどいときには、寝起きするのも困難になります。このような寝ちがいが、もし何の原因もなく、「寝ていること」だけで起こるのであれば、恐ろしくて、毎晩安心して寝ることはできないでしょう。

 

この寝ちがいが起こる本当の原因、すなわち、頚部の回りの筋肉が、頚椎をしっかりと包み込み、保持することができなくなる原因は、主に、その患者様の前日(あるいは前々日)の生活の中にあります。

 

寝ちがいが起きるには、多くの場合頚椎の回りの筋肉の協同作用を弱らせてしまうような、何かがあったと考えられます。そしてそれは、大抵、無理をした、頑張ったというような重労働ではなく、手先の細かい繰り返しの作業や、長時間の集中するような作業(肉体的には疲労感は少ない)によって、後頭部のすぐ下から、頚椎、肩甲骨の内側まで広がる、筋肉の緊張が強く発生し、これによって、胸郭の第一肋骨を含めた頚椎周辺の筋肉の、協調されたスムーズな動きができなくなって、寝ちがいの症状を出現させてしまいます。

 

そして、これらの筋肉の問題を惹き起こす作業は、日常の生活動作や、家事の延長線上にある動きのため、これがこのつらい寝ちがいの原因になっているということは、患者様御本人には、想像もつかない場合がほとんどです。

例えば、手紙や年賀状を、長時間書き続けることや何かを削ったり、磨いたりするような作業も、普段そういうことをあまりやらない人が、一生懸命頑張って行うことで、このような、特異的な筋肉の緊張状態を起こすことがあります。

 

そのほかにも、実際、曲接骨院で経験した症例ですが、田舎から送ってきた、らっきょうや梅干をつけるために、二日がかりで皮をむいたり、洗ったりしていたケースや、柿をたくさんいただいたので、吊るし柿を作るために一日中作業していたなど、今まで毎年やっていた作業であっても、年齢や体調の問題などで許容範囲(閾値)を上回ってしまって、強い筋疲労を作り出し、頚部に大きな問題を発生させてしまうこともありました。

 

 

また、パソコン作業や、ゲームなどに夢中になって、一日中続けていたりすることもその細かい手の動きの繰り返しによる疲労とともに、眼に対する強い光刺激による眼精疲労も重なって、これも頚部の筋肉の強い疲労を惹き起こし、寝返りの時の筋肉の協同作用を妨げて、寝ちがいを作ってしまう原因になります。

 

このように、寝ちがいは、寝ているだけで自然に起こるのではなく、手先の細かい作業の継続や、長時間の根を詰めた作業などによって、頚椎周辺の筋肉が疲労し、緊張することによって、頚全体のコントロールがうまくいかなくなり、寝ている時の頚椎の不安定を作ってしまうことで、起こっているのですそして、もともと頚椎などの問題を持っている人や、加齢に伴って起こる変性などが、潜在的な要素となって、そこにこれらの原因が加わることによって、このような症状を発生させてしまうのです。

 

寝違えが、発症した時には、まず最初に、強い痛みと炎症を和らげるための処置が必要になります。曲接骨院では、急性期には、生理冷却法や、氷枕を用いて、強い熱性の炎症を鎮めるように努めます。それと同時に、頸椎全体の安定を回復し、これを保つために、できるだけ穏やかな、包括的な整復法を用いて、対応していきます。そしてこれを保持するためのテーピングを施し、必要があれば、急性期に少しでも痛みを緩和する目的で、固定装具を使用します。

 

軽度の寝違え症状の場合、肩こりの症状と間違えて、マッサージをされてしまうことが良くあります。たとえ軽くても、寝違えは急性炎症ですから、このように、誤ってマッサージをされたことがきっかけとなって、ひどい熱性炎症を惹き起こして、私達のところに飛び込んでこられる患者様に、時々遭遇します。 

 

診察の段階で、寝ちがいなどの炎症症状と、ただの筋疲労をしっかり判断して、分類することが大切です。いつもの肩こりと少し違う症状の時には、不用意な刺激は避けるべきだと思います。このようにして、穏やかにかつ慎重に対応することで、普通2~3日で、急性期の強い痛みは軽減します。その後は、くびの動きの固さや運動制限と、それに伴う運動痛が残ってきます。そして、特に、他に悪影響を与える問題がなければ、10日前後で、痛みはほとんど消失します。本来、強い炎症の場合、3週間ぐらいは注意が必要ですが、このように適切に処理できれば、数日で普通に動けるようになります。

 

その後で、頚部の異常や動きの悪さが残った場合は、私達が日頃行っている、整復治療として、脊椎や骨盤を含めた全体の問題を、詳細に探究することによって根本原因を追究し、処置、対応していくことになります。そしてこれは、将来の再発を防ぐ、予防手段でもあります。

 

これらのことを踏まえたうえで、本当の原因である手作業の継続や細かな動きの繰り返しなどについては、しっかりと考えていく必要があります。

 

原因がきちんと分析できているなら、その作業を控えることが一番の方法です。しかし仕事や家事などで、どうしても行わなければならない時は、許容限界を超えないように、量を減らしたり、数回に分けて行うなどの工夫が大切です。そして、原因になるような仕事をしてしまった後は、今、その時点で痛くなくても、予防として頚部の氷冷法を行うことを,おすすめします。

 

アイシングとしてよく知られている方法で、野球選手などのスポーツ選手がインタビューを受けている時に、肩や肘に大きな氷の袋をつけているのを、テレビなどで見られたことがあると思います。今日の試合をこなすことができたから、今の怪我の状態が、特に悪いわけではないはずですが、あのようにすぐ時間を空けず、氷で熱をとることによって、以前、痛めた場所の管理や、別の障害を作らないように予防しているのです。そしてそれは、その部分に、動かしたための熱が残っているときに、できるだけ速やかに、その熱を取り去って、後の炎症になる火種を残さないようにしているのです。

 

この考え方に習って、以前、寝ちがいを起こした作業を、どうしてもやらなければいけない時には、終わった後、できるだけすぐに、氷で頚部周辺の熱をとってあげることによって、炎症の原因をため込まないようにして、寝ちがいの発生を予防するようにしていくことが大切です。

 

寝ちがいは、非常に痛くつらい症状です。しかしそれが長時間続くわけではありません。正しく対応することによって、短期間で軽減消失し、のちに後遺症を残すことはほとんどありません。そして、その本当の原因を理解して、今後の再発や習慣化をしっかり防いで、予防していくことが重要だと、私達は考えています。