夏の上手な過ごし方~原因編~ |
最近の日本の夏では、35℃を超える猛暑日が普通になってしまいました。30~40年前ならば、大阪市内でも30℃を越えると、ひどく暑い日という感覚がありましたが、今では30℃の日はむしろ穏やかな日と思える位、ここ数年の気温の上昇は異常です。これに加えて、見逃していけない問題は、気象庁などが発表する為に温度を計測しているのは、照り返しを避けた芝生の上や風通しの良い、日影の百葉箱の中にある温度計だということです。私達の実際に生活している都市部のアスファルトやコンクリートの上とは、条件が大きく違ってきます。
天気予報の発表が35℃の時は、今私達が歩いている場所はゆうに40℃から45℃になっていると考えておくべきです。道路の舗装状況や生活環境も含めて、今まで日本人があまり経験したことのないような気温の中でこれからも生活していかなければならないということを、よく頭に入れておくべきだと思います。
以前の夏と同じ感覚で、真夏の日中に普通に作業する事が、実は今の日本の夏の現状では大変危険な行為になってしまったと言っても過言ではないと思います。仕事や特別な必要性のない場合、特に普段慣れていないような長時間の作業を、日中炎天下で行う事は極力避けていくべきだと考えます。昔は夏の炎天下でも、農作業やスポーツの試合などが普通に行われてきましたが、5℃~10℃の気温の上昇は、温帯から亜熱帯に変わるほどの環境の変化が起こっているのです。
やはり今までの常識は、少し横に置いて、現実の夏の状態を冷静に判断して、生活のパターンを大胆に変えていくことも必要ではないでしょうか。
南洋の島々で暮らす人々や、中近東の人々の生活様式なども少しは参考にして、現状に合った生活を考え直して見るのも、熱中症を含めた夏の健康を考える上で大切な事だと思います。温度の上昇は炎天下の屋外だけでなく、家の中にも大きな影響を及ぼしています。特に、都市部においては、家の周辺の条件などによっては室内温度が35℃や40℃に上がってしまうことも考えられます。
今までエアコン無しで過ごしてきた家庭でも、エアコンが好きとか嫌いとかではなく、冷静に室内の温度を計ってみて、30℃以上になっていたらゆるやかにでもエアコンをつかうことをおすすめします。確かにエアコンを使うことによって、ダルさや冷え、むくみなどの身体の嫌な反応は起こりますが、熱中症になって、命にかかわるような状態になるよりは、エアコンを使って室温を穏やかに調整しておく事の方が大切です。そのうえで、エアコンの中で過ごす場合、まずエアコンの風に直接当たらないように注意します。風は体温を大きく奪い、強い冷えを起こし、体調に様々な悪影響を与えます。
これは扇風機の風も同じことで、エアコンが嫌いだからといって扇風機を固定して、直接長時間当たってしまうのは、むしろ身体にとっては危険です。適度な低すぎない温度で、風を自分に直接当てないように注意しながら、エアコンの中でその温度にあった服装を心掛けて過ごすことで、エアコンの悪影響も最小限に抑えながら、安全に夏を過ごす事ができると思います。
2)極端な暑さでなくても体温調節コントロールを失うタイプ
そもそも体温のコントロールは、どこで行われているのでしょうか?暑い夏に汗をかいたり、寒い時には鳥肌をたてたり、震えが起したりするのは、基本的には自律神経の仕事です。自律神経は、外側の環境の変化に自分の身体をうまく適応させる為の、重要な働きを請け負っています。そしてその自律神経に命令を出している司令塔が、大脳半球にはさまれた中心部分の深い所にある、「視床下部」という場所です。
この視床下部は、自律神経を介して体温調節を行っているだけでなく、ホルモンや体液の中の塩分を初めとする電解質のコントロールをする司令塔でもある為、この視床下部が様々な原因で、混乱・疲弊し正常なコントロールを失うことで、最終的には高熱を発生したり、ショック状態になって、重篤な熱中症症状を引き起こしてしまいます。視床下部が正常なコントロールを失う原因については、様々な問題が考えられます。病的な原因は専門医の判断に任せるべきですが、正常な視床下部が機能不全に陥る原因として、特に大きな問題になる3つのパターンについて考えてみます。
① 大きな環境温度変化の頻回の繰り返しによる疲労からの失調
② 強い精神的ストレスの継続によるコントロール機能の低下
③ 視床下部を含む脳底部分(眼の奥 鼻腔の上)のオーバーヒート
① 大きな環境温度変化の繰り返しによるもの
例えば室温25~26℃の強い冷房の効いた部屋から、先ほど述べたような40℃超える屋外を行ったり来たりするような環境では、その度に自律神経が一生懸命働いて、その場所の温度に適応する為、汗をかいたり、血管を収縮させたり、筋肉を動かしたりというような作業を、何度も繰り返すことになります。一般的に自律神経が普通に適応できる温度差は、10℃程度と言われています。(訓練によって変わってきます)
先ほど述べたような、15℃以上の温度差の繰り返しの適応作業は、自律神経はもちろん、その司令塔である視床下部にとっても大きな負担になります。この状態が長く続くことによって、視床下部は疲労し、失調を起こし、正常な体温コントロールができなくなっていくことは、当然考えられます。職場や公共の場であれば、勝手な行動は不可能ですが、もし条件が許されるなら、28~29℃程度のゆるやかなエアコンでコントロールされた部屋で、あまり薄着にならず、日中の暑い時間帯はできるだけ外出せず、一定の温度の中で過ごすのが理想です。
但し、昨年からマスコミの報道の中で、家の中での熱中症が大きく取り上げられている為に、逆にその心配のあまり、極端に室温を下げすぎている人達も見うけられます。室温を低くし過ぎると、先述のように外気温との差が大きくなり過ぎて、余計に早く視床下部を弱くしてしまう結果になります。また、熱中症を怖れるあまりの室温の下げすぎは かえってクーラー病の問題(冷えによる体調不良)を起こしかねません。そして、これも視床下部を弱らせる原因になります。室温はほどほどに、あまり恐怖心をもち過ぎず冷静に対応して下さい。
② ストレスによる視床下部の機能低下
この視床下部という脳の重要な中枢は、自律神経を統括し、ホルモンを調整し、体液の電解質のコントロールも行っていると先に述べました。その上、同時にここはストレスを最終的に受け取って、それに対して様々な身体のコントロールを行う場所でもあります。その昔、人間になるずっと前の動物達は、ストレスと言えば、食うか食われるか、生存できるか殺されるかだったと想像できます。その為ストレス=危険が迫った時、戦うか、逃げるか、隠れるか、瞬時に判断し行動する必要がありました。この為、ストレスを感じた瞬間に、信号は視床下部に送られ、同時に同じ場所が素早く身体全体に司令を出して血流やホルモンをコントロールして、すぐ行動を起こす必要性があったと考えられます。
しかしながら数百万年経って人間になった時、特に現代人にとってストレスは、瞬時のものではなく、継続的に続くものあるいは、長い時間苦しめられる原因になってしまいました。職場の問題、家庭の問題、個人的な悩みなど長期間のストレスが、感情や情緒の中枢である大脳辺縁系と言われる場所から視床下部に集まり、これを継続的に処理しなければいけない為、視床下部は常に疲労し、弱ってしまい、これが自律神経やホルモンの誤作動を引き起こし、ストレスが原因の様々な心と身体の病気を発生させていまします。
最近では自律神経失調症や心身症、筋線維痛症など、このような問題が広く一般にも認知されるようになりました。話しを元に戻しますが、長い間このようなストレスが続いている状態では、当然その中枢である視床下部は、疲労しうつ熱していきます。その為、正常ならば問題にならない程度の温度差や暑さ、あるいは軽い夏風邪程度の体調不良でも簡単に体温コントロールを失い、一気に熱中症になってしまい重症化することは充分考えられます。
昔から冬の寒い時、口から息を急に吸い込むと、冷たい空気が一気に気管から肺を冷やすことになり、咳が出たりして呼吸器に負担をかけてしまうため、できる限り鼻から空気を吸い込んで、空気を暖めてから、肺に送ってあげる事が大切であるといわれてきました。また、口呼吸による様々な悪影響を説く研究者もおられます。この鼻から入る空気を鼻腔内で暖める為の熱源は、実は脳の底の部分に貯まった脳内で発生した余分な熱なのです。
しかし、この鼻から入ってくる空気が体温より高くなると、副鼻腔の気化作用がうまく働かず、熱を効率よく奪うことができなくなります。喉が焼けて熱いと感じるような時は、脳底部の熱もオーバーヒートしているのです。このような現象が続くと、やはり視床下部の機能が低下し、最終的に体温コントロールや自律神経の調整が乱れてくることは、充分考えられます。
このように、それほど過酷な暑さに遭遇しなくても、様々な理由によって視床下部が乱れる事によって、本来のコントロール機能を失い、大きく体調を崩したり高熱を発生したりしていわゆる熱中症の状態に陥ってしまうことがあるということを知っておいて下さい。
夏の上手な過ごし方~対処編~につづく