五十肩(肩関節周囲炎後の肩関節拘縮)について |
<大切なこと>
1)50才になれば、ほとんどの人は「50肩予備軍」。 重い腕を引き上げて、骨の頭を肩甲骨の受け皿にしっかりかみ合わせるための筋肉(インナーマッスル)の年齢的な弱化が原因。
2)筋肉の弱化という準備ができてしまった予備軍にとって、思いもよらない小さなきっかけでも50肩(肩関節周囲炎)が発症する。
3)急性期を除いて、治療の基本は運動療法。原因や問題を治療で取り除くことができても、動かない肩を元に戻すのは、正しい運動療法を根気よく続ける事が大切。
五十肩としてよく知られている状態があります。
よく誤解されているのは、肩こりのひどい状態や、頚椎の問題による、頚腕症候群などの、痛みやしびれなどの症状が、五十肩と勘違いされていることです。本当の五十肩は、肩関節周囲炎といわれる、肩関節の炎症などによって動きが悪くなる状態で、ある方向に動かそうとした時、痛みや制限によってうまく動かなくなってしまう症状に代表される、肩関節の運動障害の総称です。
五十肩といわれる通り、人間は、五十歳くらいになると、ほとんどの人が五十肩予備軍になります。人間は、四足歩行をやめて立ち上がったために、腕を前後、上下、左右方向に自由に動かせるようになりました。そのおかげで道具を使ったり、物を器用に作り出したりすることができるようになったのです。
しかしこれを行うためには、上腕骨(腕の骨)の頭の部分を、斜め上にある肩甲骨の受け皿の部分に引き付けて、関節をしっかりとかみ合わせ、膝などと同じ、ヒアルロン酸由来の滑液(潤滑油)を十分機能させて、スムーズな動きを作る必要があります。膝の場合は少しくらい筋肉が弱っていても、自分の体重によって、関節をしっかりとかみ合わせることが可能ですが、肩の場合は体重や重力を使うことができないので、これを達成させるためには、インナーマッスルをはじめとする、肩周辺の多くの筋肉が、連動し協調することによって、重い腕(5キロ~7キロ)を持ち上げ、上腕骨を肩甲骨の受け皿にしっかりと押し付けることができているのです。
しかし、五十歳くらいになると、個人差はありますが、筋力が少しずつ低下してくるために、この上腕骨を肩甲骨の受け皿に引き付ける力が弱り、関節をしっかりとかみ合わせることが、難しくなってきます。これをカバーするために、周辺の筋肉がうまく代償して、肩関節の動きを何とか維持しているのです。
こんな時、急に重い物を持ったり、激しいスポーツを始めたり、天井や大きな窓の掃除、壁のペンキ塗りなど、肩周辺の筋肉を極端に疲労させる動きをすることによって、なんとかできていた、関節の引きつけができなくなり、潤滑液の機能が失われ、(潤滑液が働くためには関節面の密着が必要)熱の発生とともに、肩関節周囲炎が出現してきます。急に手が上がらなくなったり、夜中にうずくような痛みが発生したり、実際肩が熱っぽく腫れてしまうケースも、少なくありません。
また転倒などによって肩周辺を打撲したり、手を突いたりして、肩関節に強い衝撃を加える場合も、若い人たちならば、「ただの怪我」で済むところが、予備軍以降の年齢になると、怪我が治るころから肩の拘縮(動きが硬くなること)が出現して、肩関節周囲炎を発症させてしまうこともあります。手などの骨折によるギブス固定の場合も、その受傷した側の肩関節が拘縮する場合と、急に使うことが多くなってしまった反対側の肩関節が、痛んでしまう場合の、両方のケースが見られます。そして、細菌感染や糖尿,偽痛風などの、内側からの疾患による肩関節の直接の炎症も、その後の肩関節の拘縮の、引き金になってしまうことがあります。
このように、五十歳を過ぎた予備軍の場合、様々な原因によって、五十肩といわれる肩関節の拘縮が、「簡単に起こってしまう」ことを知っておいてください。
また、大きなきっかけがなかったとしても、今まで普通に行っていた作業や、スポーツを続けている間に、上腕骨を肩甲骨に引き付ける力が徐々に弱ってくることによって、動かすたびに、骨の頭をうまくコントロールすることができず、この上腕骨の頭が、その上に屋根のように張られた「肩甲骨のじん帯」に接触することになり、これが繰り返されることによって、上腕骨の頭についている腱板というインナーマッスルの腱が障害されて、いわゆる「腱板損傷」という状態になります。そしてこれが継続すると、防御的に「化骨」で補強しようとする反応が起こるため、その部分に石灰の沈着が見られるようになります。
このように、肩関節周囲炎は、五十肩といわれるように、五十歳を過ぎた多くの人に、明日にでも起こっておかしくない厄介な状態です。運よく、きっかけを作らず、適度に同じペースで使い続けることによって、筋力の極端な低下もなく、そのまま一生涯、肩の問題を経験しないで済む人もたくさんおられますが、それでも、今何ともない五十歳以上の人にとって、他人事でなく、だれにでも可能性があることを知っておいてください。
同じ肩関節が動かない症状であっても、もっと高齢の方々の場合は、少し原因が変わってきて、先ほどの原因に加えて様々な運動能力の低下や、姿勢の変化による肩甲骨の傾斜などによって、そんなに痛いわけではないけれど動きにくい、手を上げようとしても、120度くらいで止まってしまうというような状態が起こってきます。凍結肩といわれる症状で、高齢者に多い肩関節の拘縮です。まれに50~60代の人にも起こることがありますが、この場合は複雑な要素原因が絡んでいるため、この状態が発生すると強い痛みを伴うことも多く、非常に治りにくい頑固な肩の固定状態を作ってしまいます。
また、両方の肩が、時間をおいて、順に片方ずつ固定してしまう症状も、人間の移動とロコモーションにかかわる、複雑な問題の異常から発症するタイプで、やはり治療には大変時間がかかります。
五十肩といわれる肩関節周囲炎は、治療として、まず最初の原因となる肩関節の様々な炎症や外傷に対しては、(その種類にもよりますが)一定期間の安静加療が必要です。そしてそれが過ぎた後は、少し痛みが残っていても積極的に動かしていくことが重要になります。痛いからと言って、じっと肩を動かさないで抱え込んでいると、その後の肩の拘縮が強く残してしまうため、今動かせる範囲を、できるだけしっかりと動かし、使っておくことが大切です。
人間は、普通180度まで手があがりますが、動物の前足は大体120度までしか上がりません。人間は鎖骨と肩甲骨の動きが特殊なため、180度まで上がりますが、肩を痛めた場合は、肩周辺の様々な連動協調運動が故障しているので、強度の面からも、四足動物と同じ120度までが安全です。この角度までの動きや作業を積極的に行ってください。
ただしこの時、手を伸ばして重い物をぶら下げたり、上がらない角度まで痛いのに無理に上げていくのは、逆に肩周辺の筋肉を、固くしてしまう可能性がありますので、当分は、避けたほうが良いと思います
運動療法においても、ダンベルや砂袋による運動や、振り回す運動、吊り滑車による強い引っ張りなどは、関節の開きを大きくし、逆に防御的に硬くなってしまうため、人によりますが、普通はあまり良い方法ではないと思います。基本的に、関節を近ずけて、滑液による潤滑機能を維持した状態で、動かしていく運動が理想的です。
曲接骨院では、運動療法として、特殊な方法の腕立て伏せ、棒体操、肩挙上のための屈伸運動、ペットボトル伸展体操などを指導していますが、運動療法に関しては、症状の程度や、その患者様の運動に対する考え方と、体力的許容度などによって、個別に指導することが必要と考えていますので、ここで詳細を述べることは控えておきます。
そしてもう一つの大切なことは、肩関節が、400万年前の、人間になる以前は、「前足の付け根」だったということです。そして、四足動物は移動する時、肩関節は、反対側の「後ろ足の付け根」である股関節と連動して動き、コントロールされていました。二本足で立った今でも、肩関節は、股関節の動きとリンケージして、その影響を受けながら機能しています。
曲接骨院では、このような関連を踏まえたうえで、骨盤や姿勢バランスから起こる股関節の問題を詳細に確認し、これを除去することに努めます。また肩関節を含めた、上肢に対する神経の流れと、その経路を安定させる目的で、頚椎や肋骨周辺の異常を整復していきます。これによって、肩関節を治りにくくしている、年齢や筋肉以外の、様々な問題にも対応していきます。
そしてこのような肩関節障害に対する、骨盤環や股関節、頸椎の安定のために、もう一つの運動療法として「生理歩行」が重要であると、私達は考えています。
生理歩行を、積極的に取り入れることで、単純な五十肩(肩関節周囲炎)はもとより、先ほど述べたような、複雑な問題が絡み合った、難治性の肩関節の拘縮も、歩行を継続することによって、徐々にその根本原因のいくつかの要素が解消されることで、回復へ導いていくことになります。肩に対して有効な様々な運動療法とともに、歩行をしっかり励行していくことが、肩関節問題の根本治療を続けていく上で、大切なことであるということを分かってください。
ただ、肩関節周囲炎による肩関節の拘縮が、完全に治癒するためには、前述の股関節や頸椎、姿勢バランスとともに、その患部の肩関節周辺の鎖骨、肩甲骨と、反対側の鎖骨、肩甲骨によるダイヤモンド(頭の上から見るとトランプのダイヤの形に見える)の安定と、その周辺の筋肉の、連動、協調運動の再構築が必要です。たとえ一つの筋肉でもうまく働かない状態で、周辺の筋肉のカバーがうまくできない場合、症状は残り、治癒のためには、その筋肉が再生復帰してくるまでの期間(時間)が必要になります。
肩関節周囲炎の最初の炎症は、正しく治療すれば一定の期間で回復しますが、その後に残った肩関節の拘縮(固くなって動きにくくなった状態)が治りきるためには、このように肩にかかわるすべての筋肉が、健全に作用できる状態が、戻らなければならないのです。
このため肩関節の拘縮の治る時間は、その患者様によって本当に様々で、運動に対する考え方や、痛みに対する強さの違いによって、大きく変わってしまいます。
昔から五十肩の治療において、家が御商売をされている場合や、家人の介護などで、どうしても動かなければならない人たちは比較的早く治り、逆にご隠居さんや、家政婦さんがおられるような環境の方は、積極的に動くことが少ないため治りにくいといわれていました。
肩関節周囲炎の後に起こる、肩関節の拘縮は、時間がかかりますが、ほとんどの場合、きちんと治ります。しかしそのためには、損傷した筋肉の再生と、弱った筋肉をカバーできる、機能的な余裕を作り出していくための、患者様ご自身の頑張りが必要です。
私達は、根本になる原因を追究し、これを取り除いていくことで、この面倒な症状を改善していくお手伝いをさせていただきますが、最も大切な、筋肉を強くしていくことは、患者様ご本人の頑張りしかありません。どうか、治ることを信じて、コツコツと努力を積み重ねていくことが、一番大切だということを分かってください。そして、それ以外に近道はありません。