成長痛について考える

 

<大切なこと>

1)成長痛という名称でも、同じ年齢、同じ競技をしている子供達に発症する子供と、しない子供がいるその違いを考える。

 

2)人間が立ち、歩く時の姿勢バランスの変化と、その修正作用としての抗重力筋の働き。膝の前面が引っ張られてしまう理由と、かかとの後でアキレス腱が引っ張られてしまう理由。

 

3)姿勢コントロールによる成長痛の予防と対応。発症の可能性のある子供たちのケアを考える。 

 

 

 

日々の治療のなかで、スポーツによる膝の打撲やねん挫などによって来院する小・中学生をよく診察しています。そしてこれらのスポーツ少年、少女のなかで、膝の下の部分が盛り上がっている、オスグットシュラッター病をもっている子供達をよく見かけます。

 

今、現在痛みがある場合や、以前、痛みがあったけれど、今は特に症状のないケースなど、様々ですが、残念ながら、ひざ下の膨隆の痕跡は、視覚的にはっきりと残っています。

 

このオスグットシュラッター病は、一般的には、成長痛といわれるもので、骨、この場合は特に、「大腿骨」の成長によって、大腿四頭筋の伸びが追い付かなくなり、筋肉が最終的に付着している、膝の下にある脛骨粗面(小・中学生では成長するために軟骨状態)を引っぱり出してしまうことで、徐々に膨隆して、これが保護的に固まったものといわれています。

 

この成長痛に関する見解は、その通り、理にかなった説明ですが、なぜ同じスポーツをしている、同じ体格、同じ年齢の子供達でも、この成長痛といわれる状態が発症する子供と、何もなく無事に成長期が終わってしまう子供に分かれるのでしょうか。このことに関しては、様々な専門書においても、ほとんど詳しく触れられていません。

 

私達、骨盤の病態の分析と、起立姿勢バランスに関する治療に、長年取り組んできた立場から考える時、大腿四頭筋は、下肢と膝を伸ばす役割の筋肉というだけでなく、人間の直立と二足歩行に関する、「抗重力筋」としての作用に、着目しています。人間の直立二足歩行は、非常に複雑な反射機構と緻密な制御、そしてそれを統括する、脳からの高度な神経作用によって、成り立っています。

 

そして「現代人と同じ姿勢」で直立二足歩行できるロボットは、今現在の、最先端の科学の力をもってしても、作り出すことができていないのです。この複雑で絶妙な、直立、歩行の制御系の中で、主に、大腿四頭筋と下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)は、抗重力筋として、バランスコントロールの機構における重要な役割を負っています。

 

本当は、こんな単純な説明ですませてはいけないのかも知れませんが、あえて簡単にまとめると、重心が何らかの理由によって前に傾いた時には、ふくらはぎの下腿三頭筋が緊張して、重心を元へ戻すように働きます。そして反対に重心が後ろに傾いた時には、大腿四頭筋が抗重力筋として機能して、これを修復するように働きます。もし何かの理由で、重心が後ろへ行くような状況が長く続いていて、大腿四頭筋が常に緊張し続けなければいけない状態になっているとき、その緊張は、膝の膝蓋骨(お皿)を含んで、膝の下の脛骨粗面の部分を、常に引っ張る力を加え続ける事になります。

そしてこの時に、元気なスポーツ少年少女たちが、走ったり、ボールをけったり、ジャンプしたりすることによって、大腿四頭筋はより強く収縮して、その腱が最終的に付着する脛骨粗面を、を持ち上げてしまいます。そして、その軟骨部分は引っ張られる力から防御するために、骨化してその部分を補強しようとした結果、骨の膨隆が起こったと想定できます。

 

このように、大腿四頭筋に、抗重力筋としての重心制御の働きが、潜在的に継続して起こっていることが、成長痛といわれるオスグットシュラッター病の、本当の原因だと、私達は考えています。

 

この、直立二足歩行の立位バランスの機構の中で、なぜ重心が後ろへ行くようになったのかを考えた時、私達は、外傷応力による、骨盤の仙腸関節を中心とした寛骨(骨盤の左右の大きな骨)の後下方への回転偏位が原因になっていると、判断しています。

 

外傷の中でも、尻もちによる衝撃が、坐骨の下から恥骨方向の抜ける応力が発生して、これが仙腸関節を軸として、寛骨を後下方に回転させる偶力として働きます。そしてこの応力は、仙腸関節本来の可動域以上の動きを惹き起こして、「ねじ山を切ったような噛みこみ状態」を作って、仙腸関節とそれに付随する股関節などの動きを、障害してしまいます。そして、この生理範囲を超えた噛みこみによる問題は、自動的に解消することはほとんど無く、たとえスポーツ少年少女たちの激しい動きの中でも、自然に消失することはありません。

 

このように、私達は、骨盤と姿勢バランスにかかわる治療を、長く続けているなかで、成長痛としての,オスグットシュラッター病が、骨盤の後下方転異を起こしているタイプの子供たちに、特に多く見られる症状としてとらえています。成長痛といわれながら、これを発症させる子供たちと、そうでない子供たちの違いは、主にこの尻もち外傷による、重心バランスの問題の存在が、そのカギになっていると、私達は考えています。

 

同じく、成長期の子供たちに見られる症状として、アキレス腱付着部周辺に痛みを起こす、踵骨骨端症(シーバー病)があります。この症状も、前述のように、抗重力筋であるふくろはぎの下腿三頭筋が、過剰に緊張するために起こる、筋肉のけん引応力が原因になっていると考えています。
オスグットシュラッター病とは逆に、骨盤の仙腸関節を中心にした、関節の不安定による離開(ゆるみ)が寛骨の前上方への偏位を作り出し、重心が前に変化することで抗重力筋である下腿三頭筋の緊張が出現してきます。そしてこの下腿三頭筋が緊張し続けることによって、その付着部であるアキレス腱と踵の骨を強くけん引することで、やはり骨端の固まっていない骨の部分を隆起させてしまいます。

 

このような、骨盤の離開による、前上方への寛骨の偏位で起こる、重心の前方向の変化の原因としては、特に子供たちの場合、転倒による膝打ち外傷と、自転車ばかりで歩かない生活が問題になります。

 

膝打ち外傷は、尻もちとは逆に、膝から突き上げる外力が、大腿骨から股関節を経て、その臼蓋(受け皿)の位置と骨盤の重心線の関係から、骨盤を前上方に回旋させる応力として働くために、重心の前移動が起こり、これらの症状の潜在的な原因になります。

 

また自転車は、サドルによる骨盤離開を起こし、これが仙腸関節の不安定性を作り出し、このために寛骨は前上方の偏位を起こし、重心を前へ移動させる原因になります。(自律養生塾自転車について考える を参照してください)そしてこのような、重心の前への移動が、下腿三頭筋の緊張を作っていきます

 

ただし、この傾向は「尻もち外傷」と違って、よく歩くことで解消されていきます。生活の中で、積極的に歩行したり、自分の足で動きまわることによって、自分自身で、重心の改善と、下腿三頭筋の緊張をなくしていくことが、可能なのです。この症状が,オスグットシュラッター病と比較して、少ないのは、この歩行や運動による自動整復の要因が、大きく影響しているのかもしれません。

 

曲接骨院では、このような子供たちに起こる成長痛といわれる疾患において、その原因として考えられる、重心の前後への変化を発生させる要素を、特殊なスクリーニングによって、詳細に探究、確認し、安全な方法で整復することで、これを除去していきます。

 

またその要素を持つ、まだ成長痛を発症していない子供たちについても、将来の発症と、膝の膨隆変形を予防する目的で、対応管理することも可能です。この予防管理によって、その子供たちが、今行っているスポーツに対して、痛みや変形によるモチベーションの低下を防ぎ、そのスポーツを楽しんで続けることで、将来のトップアスリートを育てていくことの助けになればと、私達は考えています。

 

 

曲接骨院では、このように、成長痛の管理も含めて、子供たちのスポーツを心身両面からフォローアップできるように、考え、対応しています。そして骨格系の問題個所の整復や筋肉障害における筋層整復術と共に、特別な時間枠を設けての、専門的なカウンセリング手法を併用しながら、これからも、子供達のスポーツを応援していきたいと思っています。