背骨のゆがみに対する考え方

 

<大切なこと>

1) 地球上の動物は自分の平衡感覚を保つために、自然に頭の軸を重力の線に合わせている。そしてそれを行動の中で優先している。

 
 
2)下肢や骨盤を含めた「土台」に傾きが起きた時、頭の軸を重力線に合わせる事を優先するために、背骨の24個の関節と水平器の役目をする椎間板が、必要に応じて動き、傾き、補正している。

 

 
3)姿勢と平衡感覚の安定の為に、「必要があって」曲がっている背骨に対して、見かけ上の判断だけで不用意に手を加える危険性を考える。

 

 

人間の直立と姿勢バランスから

地球上の動物は、平衡覚を維持するために、常に頭の軸を重力線(引力の線)に合わせるようにして生活しています。そしてこれは人間も同様です。

 

飛んでいる鳥も、草原の斜面に立つ羊も、葉っぱの上のカエルも、旋回していようが、斜めになっていようが、頭の軸は常に、重力線に合わせるようにしています。これによって、その動物の両方の目と、左右の平衡器官(人間の場合は前庭三半規管)などを、重力線に対して直角に交わらせることによって、自分の基軸を作っているのです。この基軸があることで、咄嗟に傾きを察知し、また瞬時に、元に戻ることができるのです。

 

人間は、神経的、機構的に重複した、複雑な平衡覚を備えているので、意図的に頭を傾けて歩いたり、ある程度の動作をすることもできます。しかし、溝を飛び越えたり、直線に合わせて歩いたり、絵をかいたり、書道をするときなど、バランスをコントロールしなければいけない時は、頭の位置を、しっかり重力線に合わせていないと、正確に行うことは困難です。しかも、この重力線に頭を合わせることは、意図的ではなく、重力を感知した中で、無意識に行われています。

ちなみに重力がかかっていない状態、たとえば診察ベッドに任意に寝てもらう時などは、重力が縦軸にかかっていないため、頭位を含め、身体をまっすぐに寝ることができる人は、ほとんどいません。

 

もし足の骨折や、何らかの障害によって、足の長さに左右差ができてしまったり、転倒や、生活習慣などによって、骨盤のねじれや傾き、股関節の変化など、身体の土台の部分に、傾斜が発生した時でも、頭の軸を重力線に合わせることが優先されるため、脊椎(せぼね)は、下の傾斜を代償するための「曲がり」を作ることで、頭の軸を重力線にまっすぐに保とうとします。

いいかえると、健康な人の背骨にできたカーブは、直立し歩行する人間の、平衡覚と移動能を維持するために、必要に応じて作られたカーブであるといえるのです。もし、真っすぐの背骨が優先されるのであれば、背骨は1本か、手足のように2本もあれば充分でしょう。

 

何故、脊椎が24個もあって、その間に椎間板という、自由にうごける場所が作られているのかと考えた時、この地球上で、安定した生活をしていくうえで、身体と周辺の環境の中で起こり得る、様々な問題や変化に遭遇しても、重力線に頭の軸を合わせ、これによって平衡バランスを獲得して、直立二足歩行を守るという最優先事項を達成する「曲がり」を作り出すために、備わった構造だと考えるのが、自然だと思います。

 

記念写真や、集合写真などで、緊張して姿勢を正した時に、カメラマンや係の人から「頭が傾いている」と指摘される人たちを、ときどき見かけます。ご本人は、普段、そんなことを言われることはないのに、写真を撮るときだけ、姿勢を正した時だけ、そういうふうにいわれることが、不思議だとおもわれていると思います。多くの場合、このようにいわれる方たちは、骨盤環か、下半身における何らかの問題があり、主に、幼少時代や数十年前の、強い転倒やスポーツ、交通事故などで、大きな傾きのダメージを残したまま、生活されている方だと考えられます。

 

今のところ、特に問題は起こってなくても、肩こりや腰痛などの不具合が、年齢とともに出始めている人も、少なくないと思います。この人達のように、土台の部分に傾きがあっても、先ほど述べたように、主に頸椎の部分でこれを代償して、「曲がり」を作ることによって、頭をまっすぐに持って行っている状態の人が、写真などの緊張する場面で、「気を付け」をしたとき、土台の傾きは、一時的に、筋肉の力によって、減少、消失するため、代償していた背骨のカーブが、そのままの角度で、頭を傾けるように表に現れてきます。これによって、本人は意識していないのに、首を傾けた状態にみられてしまうのです。

 

これは一つの例ですが、このように外から視覚的に確認したり、寝ている、座っている姿勢だけで見つけられた、背骨の「曲がり」や姿勢の問題に対して、簡単に外から手をかけて、介入してしまうことで、その人の正常な代償機能を失わせてしまい、重力下での起立や歩行に支障をきたし、ひどいときには、めまいや起立困難、歩行失調などを作ってしまう可能性があることも、考えておかなければいけません。

普通はむしろ、軽度な曲がりが見られても、その人が健康に、支障なく生活されている場合は、たとえそれが審美の観点からでも、特別な人為的対応をしないほうが良いと思います。

 

しかし、先ほどの例のように、その曲がりが長期にわたり、何らかの問題を起こし、あるいは、起こる可能性が強いと判断され、これを除去する必要があるときには、代償された結果である曲がりに、対応するのではなく、その曲がりの原因になっているもの、多くは、下肢を含めた、身体の土台の問題(まれに頸椎初発の平衡覚系の問題もあるが、中枢由来も考慮し、転医も視野に入れて、不用意な対応は禁物)を詳細に、緻密に病歴や既往歴、外傷歴も含めて、確認、検査し、その問題を優先して対応し、解決するべきです。

 

そしてその後、必要があれば、その「曲がり」本体に対応していくことになります。その場合も、デリケートな平衡バランスを、壊さないようにするために、細心の注意を払いながら、安全を最優先したアプローチの方法を、選択するべきだと思います。

 

 私達、骨格系の整復を専門にしているプロフェッショナルとして、気軽に、安易に、背骨のゆがみや、姿勢問題に手をだすことは、厳に慎まないといけないと、今、改めて、強く感じています。

 

重力のもとでの、頭の位置や平衡覚との関連性を踏まえて、代償作用を含めた、人間の起立姿勢、および二足歩行のための、健康で正常な対応変化と、真に異常な問題を正しく判別し、精査して、本当に処置が必要な部分を充分把握し、それを安全に取り除くことのみが、本当の意味での、患者様の正しい健康的な姿勢」を取り戻す方法だと考えています。

 

そして、その曲がりの原因になっていた、根本的な問題を取り除いた結果が、その場ですぐに「まっすぐ」にならなかったとしても、管理された生理歩行や正しい運動、そしてその患者様の姿勢に対する心がけを引き出す、適切なアドバイスなどによって、他の人たちから見て、「良い姿勢」を作り出すことは、充分可能なのです。