骨粗しょう症について考える

骨折の危険を減らすために

 

更年期を過ぎてホルモンの状態が変化することによって、女性の場合、誰でも骨の中のカルシウムに問題が起きてくるのは、ある意味生理的に自然な現象です。閉経によるエストロゲンなどのホルモンの減少によって、カルシウムを骨に取り込むことができなくなり、骨量(骨の中のミネラルの量=主にカルシウム)は、現状維持を余儀なくされます。そしてこの先、様々な細胞の活動で使われるカルシウムを骨から持っていかれないようにするため、すなわち骨量を減らさないために様々な対策が必要になります。(最近は、ホルモン療法の発達によって、男性でもこの影響を考えておかなければいけなくなってきました。)

 

近年は、効果の高い骨粗しょう症の薬も開発され、一定の効果は上がっているようです。それでも食事や日常の暮らしの中で、血液内のカルシウムを減らさないようにする努力は必要だとおもいます。しかし私達は、骨折の危険を減らすために、骨量以外にも大切ないくつかの要件があると考えています。

1)コラーゲンの健全な構造を保全する。

2)転倒から骨を守るための十分な筋力と反射機能。

 

1)コラーゲンの健全な構造を保全する

骨はカルシウムとコラーゲンの「鉄筋コンクリート」で、できています。カルシウムがコンクリート、骨基質であるコラーゲンが鉄筋というイメージです

 

 

カルシウムは、前述のとおり、普通は閉経された後、女性ホルモンのエストロゲンが減少することによって、骨に新しく吸収されにくくなっていきます。そこで、もう一つのコラーゲンが、骨の強さのために重要な役割を担っているのです。しかし現代の、私達の生活において、コラーゲンの安定した維持が軽視されているように感じています。

  

コラーゲンは、日本語で「膠質」と訳されます。膠原病の膠と同じ字で、これは「にかわ」とも読まれます。和紙や木材などの様々なものを張るときの接着剤として、用いられる「にかわ」です。この接着剤の膠は、実は動物の骨や皮を、長時間をかけて煮ていくことによって作られています。ゆるい火でゆっくりと温めていくと、にかわ質(コラーゲン)が骨から溶け出してくるのです。

 

近年、寒い時期に温まる簡単な方法として、電気毛布や電気カーペット、貼るタイプの使い捨てカイロなど、長時間直接身体に接触させる暖房手段が多くなっています。しかしこれは、コラーゲンの健全な働きを維持するという面から考えると、骨の強度を弱めてしまう危険な方法だと思われます。

 

私達も「冷え」は身体に悪い現象で、当然防ぐべきだと考えています。そのためには、「保温」をすることが大切です。暑さや寒さに対応する時に重要なことは、ご自身の基準の体温(36℃前後)をどのように正しく維持するかを軸に考えていくということです。

 

一般に、「冷え」に対しては、敏感に反応されるようですが、「過剰な加熱」による体温の上昇にも、もう少し注意を向けるべきだと思います。

 

人間の身体は、主に水とタンパク質と脂肪でできていますが、コラーゲンに代表されるタンパク質は、41℃を超えていくと凝固していくといわれています。いわゆる「しゃぶしゃぶ」や「温泉卵」のように固まってしまって、後でいくら冷やしても元には戻りません。

 

普通、人間の身体は熱を加えられても、短い時間であれば、しっかり血液を循環させて、その流れによって温度の上昇を防ぎます。一般にこれを血液の循環が良くなったものと誤解されていますが、身体は温度の急な上昇を抑えたい目的で、循環を旺盛にしているのです。

  

しかし過熱が「長時間」にわたって続けられると、今度は全身の体温上昇を防ぐために、その場所をあきらめて、血液を積極的に送らなくなります。そうなるとその場所は、温度の上昇を止めることができなくなって「低温やけど」を起こしてしまいます。

 

その低温やけどの起こった場所は、皮膚だけが傷んでいるように見えますが、実はゆっくり芯まで煮詰められたことによって、その下の筋肉や皮下組織はもちろん、コアの部分(中心部)の骨のコラーゲンまで溶け出していくことになるのです。

 

貼るカイロや電気毛布を長時間使い続けた高齢者の方の骨が、ろうそくが解けるように、コラーゲンが溶け出して変形している症例も、レントゲンなどの診断で多く報告されています。いくら骨量を増やして骨折を防ごうとしていても、偏った加熱によって、コラーゲンを失っていくことで、結局、骨を弱らせて、骨折の危険性を上げてしまう事にならないように注意しなければいけません。

 

私達は、その人の過熱できる時間は、ご本人がお風呂に入った時、「のぼせてしまうまでの時間」が限界だとお話ししています。常識的なお風呂の温度(39℃~42℃くらい)で一時間以上入り続けられる人は、ほとんどいないと思います。病院のリハビリのバイブラバスやパラフィン浴、ホットパックなどの温熱治療も、大抵20分~30分ぐらいが常識的だと思います。

  

・身体が冷えている時には、お風呂に入って温める。(風邪の場合は別ですが)

・電気毛布は寝る前に切る。

・ホットカーペットの上に寝転ばない。(洋室の椅子生活で活用する)

・カイロは貼らずにポケットに入れて、冷えている場所に手で当てるようにする。(昔の燃料式の懐炉のように)

そしてある程度しっかり厚着をして、部屋の暖房を適度に調整して冬の寒さをうまくしのいでください。(フリースやダウンなどを上手に使うと厚着をしても肩は凝りません。)

  

骨を強くするためには「骨量」だけにとらわれるのではなく、コラーゲンの維持、安定にも気を付けることが大切であるということを知っておいてください。

 

2)骨折を予防し転倒を防ぐための筋力と反射機能

最近、ロコモーティブシンドロームという言葉をよく耳にします。年齢による移動能力の低下に伴う様々な問題のことです。

 

骨量を良い状態に維持していても、筋力が充分でないと骨は簡単に折れてしまいます。70歳以上の方々の骨は、数字的に骨量が足りていても安心はできません。85歳の骨だといわれた80歳の人の骨が、薬の効果で75歳、年齢より若い骨になったと褒められても、骨折の危険性が減ったとは言えないのです。

 

転倒した時の衝撃を吸収できる筋肉を、どれだけ維持できるかということと同時に、転倒する時のダメージを極力少なくするための身体の反射機能を落とさないためにも、前述のロコモーティブシンドロームをしっかり予防することが重要になります。

 

最近、ジムやデイサービスなどで、高齢者の方々がマシーンなどを使って筋力トレーニングをすることが流行しています。そしてみなさんそれぞれにまじめに励んでおられます。これらの運動も、筋力を落とさないことに対しては有効だと思いますが、転倒と、それに続く骨折を防ぐという目的においては、本当は全体的、統合的な身のこなしを維持するための筋力の保持と運動方法が必要になると、私達は考えています。

 

女性の方ならば、今まで長年やってきた家事を、年齢にあった危険のない範囲で手抜きせず続けていくこと、男性の場合はラジオ体操やゴルフ(ゲートボールなど)やゲーム競技などで「身体全体を使うこと」を積極的にされることが良いと思います。

そして最も大切なのは「歩行」です。

 

人間の身体は、基本的移動動作である直立二足歩行を目的にした形をしています。(生物学の合目的形態)

そしてそのすべての筋肉は直立二足歩行をするために存在しています。(泳いだり走ったり、物を持ち上げたりするような筋肉は、個人差と訓練によって一人ひとり違ってきます)

高齢の方達が転倒を防ぐための姿勢の安定を維持しながら、関節や他の場所を傷めることなく、確実に転倒防止に役立つ筋力を鍛えていけるのは、人間の基本動作である歩行を「旺盛」に続けていくことなのです。

 

そもそも、ロコモーティブシンドロームという言葉のもとになったロコモーションとは、「移動」のことであり、人間にとっての基本的な移動動作は直立二足歩行ですから、それをしっかりと続けていくことが、一番正しい、理にかなったロコモーティブシンドロームの予防法であり、転倒を防ぐための最も効果的な手段なのです。

 

人間が二本足で立ち、歩くためには、本当に緻密で複雑な構造と反射機能、そして脳と神経の絶妙なコントロールが必要になります。そして、我々現代人と同じ二足歩行ができるロボットは、今、現在の最先端の科学の力をもってしても作ることは不可能だということは、これまでに何度か述べてきました。この複雑で高度な起立と歩行の制御機能は、そのまま転倒を防ぐための反射機能ともいえるのです。

 

もしつまずいたとしても、「おっとっと」と踏みとどまれることができること、そしてもし、それがかなわず転倒してしまったとしても、反射機能がうまく働いて、最小のダメージで済むように身体を守ることのできる能力を、衰えさせないように維持していくことが大切なのです。そのためにも、その反射機能と脳と神経のコントロール能力を落とさないための歩行が重要だということを解ってください。

 

そして、この歩行自体が重力線に沿った動きであり、基本的に骨は「重力に抗うため」にできたものですから、歩くことによって、骨の軸に対して正しい生理的な圧力をかけることができ、これが骨の強さを維持するための大きな力になることは、言うまでもありません。

 

骨はその軸方向に力が加わった時には、相当な圧力に耐えることができますが、ねじれや斜め方向の力がかかると、あっけないほど簡単に折れてしまいます。以前、アメリカ大リーグのヤンキース時代の松井選手が、手首を骨折したことがありましたが、フライを追っかけて倒れこんだ時、芝生とグローブが接触した時の手首をひねる力だけで折れてしまいました。あれだけ鍛え上げられたプロ選手でも、力のかかる方向によって簡単に骨折してしまうのです。

 

骨折を防ぐには骨の強さももちろん大切ですが、自分の身を守るための「上手なこけ方」と、少しでも衝撃を少なくするための筋肉の力が、骨折をはじめとする大きなけがを防ぐには欠かせないものなのです。