冷え症について考える |
日々の診療の中で、様々な症状で来院される患者様の中で、「私は冷え症です」といわれることが良くあります。
防寒に優れた衣類や、高性能で手軽な暖房器具が簡単に手に入る、現代の生活において、「冷え症」といわれる症状には、大きく分けて、主に3つの原因があると考えています。
1)冷えのぼせ (自律神経の乱れ)
2)運動不足
3)骨盤環の離開(仙腸関節のゆるみ)
1)冷えのぼせのついて
脳細胞が活発に働くためには、大量の酸素が必要で、これを運ぶのが血液であり、この血液の1/2を脳に集めるために、今すぐに増産するというわけにはいかず、命にかかわりの少ない手足の末梢から血液が集められます。例えば、興奮が限界に達して,失神してしまうような状態の場合は、大量の血液が脳に集中することによって、手足はチアノーゼ(白く変色する)を起こしてしまう事もあります。
特に強いストレスは、脳細胞が負の動機によって活発に働き、このための酸素供給が脳に集中し、それによって手足の血行が大きく障害され、ノルアドレナリンなどの影響もあって、冷え症をより強く発生させてしまいます。
また、パソコンやスマホも、脳に血液が集中してしまう原因になります。
短時間で多くの作業をこなしてくれるパソコンの、膨大な情報量を人間の頭で理解するために、脳は、最大限活発に働き(働かされ)、脳に血液が集中します。そしてそれ以外にも、これらの液晶画面から受ける情報は、眼からの光エネルギーの入力として、大きな問題を作ります。
A4の白い紙に書かれた情報を頭に入れるのと、同じ大きさの液晶画面で同じ量の情報を受け取るのでは、その光エネルギーは「100倍」違うと言われています。 これを神経の中でも特に太い「視神経」を通して、脳に入力することによって、脳の中に蓄積されてゆくエネルギーのポテンシャルは膨大になり、これを処理するために、血液が脳に大量に集められ、その結果、末梢の流れを阻害する原因を作ることになります。
数年前に、ポケモンのテレビ番組の、ちらつく画面を見ていた子供たちが、意識喪失や、テンカン様の症状を起こした事件を、覚えておられる方もいらっしゃると思います。液晶のテレビ画面を凝視し続けることによって、光エネルギーによる大きなポテンシャルが、まだ十分に成長していない子供達の脳に、入力された結果、このようなことが起こったのです。
大人なら、一回のテレビだけでこのようなことが起こることはありません。しかし、仕事や趣味で、何日も何時間も、パソコンの画面を見つめ続けなければならない場合、大人であっても、同じように脳にポテンシャルが蓄積して、これを血流が処理するために、脳に血液が集まり、手足の冷え性の原因を作ってしまいます。
このように、パソコンやスマホは、その情報処理能力や、光エネルギーによって、脳内の血液循環量を増やし、その結果、末梢の血行を阻害して、冷え症の大きな原因になることを知っておいてください。
2)運動不足
体温のほとんどは、筋肉の動きによって発生した熱によって賄われています。そしてその熱は、血液の循環によって体中に運ばれていきます。便利な社会になって、色々なことが、リモコンやネットのクリックだけで、できるようになり、よほど意図的に動いていかない限り、年々、身体を動かす機会が減ってきます。
冷え症、特に足の「冷え」に関しては、このような動かない生活とともに、自転車や車によって、歩かなくなってしまったことも、大きく影響しています。足先の血流は、もともと、人間の基本的な移動動作である、歩行によって維持されていました。
例えば自転車の場合、大腿部は、活発に動きますが、膝から下の、下腿部や足部はあまり使われることはありません。競輪選手の太腿が異常に太いことは有名ですが、それに比較して、下腿部が極端に細い事は、あまり知られていないと思います。
自転車ばかりで歩かない生活をしていると、膝から下の筋肉を積極的に使うことはなく、どうしてもその部分の血流は滞り、活発な血流は望めません。まして車の場合は、ほとんど下半身の筋肉は、使われることはなく「楽に」移動することができるので、下半身における血行不良が起こって、冷え症の大きな原因になってしまいます。
このように、便利な世の中の恩恵を受けて、この時代を謳歌していることが、残念ながら、手足をはじめとした身体全体の筋肉の動きを減少させ、これによっての「冷え症」を訴える人が増えてきたと考えられます。このタイプの冷え症は、普段から、歩行や運動によって、身体を積極的に使い、筋肉をしっかり動かして、血液循環を活発にさせることで、改善されていきます。
3)骨盤環の離開(ゆるみ)
骨盤の整復治療をしていると、興味深いことを経験します。
骨盤の仙腸関節のゆるみや不安定が著明な患者様に対して、確実にしっかりと、その問題を整復していくと、今まで冷たかった、足先や下腿部が、急に暖かくなってくる現象を、何度も体験しています。
出産や、女性の生理、肥満や低気圧による体の膨張、筋力低下などによって、仙腸関節が大きく離開(最大3mmのわずかな位相差ではありますが)することで、下肢のむくみや、その後の静脈瘤の発生が見られます。
これは、骨盤環の離開によって、骨格系の連続性が絶たれることで、神経の伝達や血流に問題が生じ、還流機能(心臓に血液を返す機能)が障害されて、下肢の血流が悪化し、これにより浮腫や静脈瘤を発生させるとともに、暖かい熱を持った、動脈血の流入を妨げることで、足先の冷えが起こるのです。この状態に対して、骨盤の仙腸関節や、それに続く股関節などの骨盤環の全体の安定を、整復によって取り戻すことで、早ければ、その場で下肢の血行が回復し、足の温度が上がることも珍しくありません。
このように、骨盤の離開による不安定は、下肢の血液循環に大きな悪影響を与えてしまうと同時に、姿勢バランスにも影響して、重心の前方移動が起きやすくなり、身体は、姿勢修正のための起立筋である、ふくろはぎの下腿三頭筋を緊張させて、代償していくことになります。
もちろん、血液循環にかかわる様々な疾患や、強い炎症などによって、手足の強い冷え状態を起こす場合もありますが、私達がかかわることのできる大半の冷え症は、この3つの原因によって起こっています。
冷え症の対策として、「頭寒足熱」と「生理歩行」をお勧めしています。
日々の仕事や勉強を頑張ることで、自律神経の交感神経が強く働きます。また、ストレスや不安、恐怖、心配などでも交感神経は強く働き、特にこのようなマイナスの感情によって働く交感神経の場合は、先ほど述べたように、特にノルアドレナリンの分泌を促し、これによって末梢血管は、強く収縮し、体幹と脳に血液が集まるため、手足の血行は悪化します。
しかし、交感神経の緊張が和らいで、副交感神経が働きだすと、脳に集まっていた血液は、手足に降りてきて、手先や足先の温度が上がります。赤ちゃんが副交感神経の働きによって眠たくなってくると、手足が温かくなってくるのはこのためです。
現在発熱しているわけではないので、冷たいのがいやなら、ハンカチやガーゼなどでうまく温度を調節してください。そして、最初の睡眠サイクル(レム睡眠とノンレム睡眠で90分)をしっかり冷やしたら、後は、冷たいと思うなら外して、普通の枕に戻しても構いません。(ただし、続けていれば慣れてきて、それほど冷たく感じなくなります。)
冷えているのに、氷枕?と疑問を持たれる方も多いと思いますが、最も血液が集中している頭をクーリングすることによって、末梢の血液循環を回復させて、身体の様々な部分の温度を上げて、冷え性を内側から改善していくように働いていくのです。
また、脳温を下げることによって、脳幹部の温度も下げられ、そこから出てくる「セロトニン」の分泌を促すといわれています。セロトニンは睡眠物質のメラトニンをうまく引き出す仕事をして、良質な睡眠を作り出すとともに、ストレスに対応する力も増幅させることができるのです。
そして、寒さが強くなって氷枕がしにくくなった時には、通気性のいい熱のこもらない枕を併用しながら、湯たんぽを使ってもう一つの頭寒足熱、足先を温めることを積極的に行ってください。もちろん氷枕をしながら、足に湯たんぽを置くのも良い方法で、これは、究極の頭寒足熱状態といえます。(電気アンカは、温めすぎになってしまう場合もあり、足が温かくなると自然に冷めていく湯たんぽのほうが、安心です。)
そしてこのようなストレスなどによって、自律神経の強い障害に悩んでおられる方々や、それが高じて、抑うつ傾向におちいられている患者様に対して、特別の診療時間枠を設けて、カウンセリング手法など含めて専門的に対応しておりますので、御気軽にこちらのほうまでご相談ください。
もう一つの冷え症を解消する大切な手段は「生理歩行」です。先ほども述べたように、足先や下腿部の血行を良くしていくには、その部分の筋肉を、積極的に使っていくことが重要です。
例えば、私達が提唱している、40分の持続歩行では、片足約2500回の下腿三頭筋のポンピング運動をすることになります。これによって、下腿部にたまった静脈血をしっかり心臓に還流して、新しい温かい動脈血が足先まで降りてくることを促します。また歩行による全身運動によって、筋肉による熱の生産が活発になって、体温の上昇が望めます。そして、日々の生活の中で発生した骨盤の仙腸関節の離開も、積極的に歩行することで自己整復されて骨盤環の安定を取り戻し、下肢の血液循環を再生させていきます。
体調が不安定で、手足に冷えが起こっている場合、まず生理歩行によって、安全にバランスよく体を動かして、身体が安定した時点で、何かご自身の好きなスポーツや趣味を始められるのも、冷え症にとっては有効な手段です。(不安定な状態ですぐにスポーツを始めることで、けがや疲労性の障害を作る可能性があります。まずは歩行からです。)
このように、頭寒足熱の考え方と40分の生理歩行によって、「冷え症」を克服していくのが最善の方法ですが、仕事や家事の関係で、このような手段を実行できない方々や、歩行だけで取り切れない骨盤環の問題の解決のために、曲接骨院では、安全で穏やかな整復法を用いて対応しています。このことも含めて、患者様自身の努力と、私達の施術によって、「冷え症」は体質とあきらめるのではなく、少し頑張れば解決できる症状であるということを解ってください。