ふくらはぎの効用 |
最近、ふくらはぎは第二の心臓といわれるのをよく耳にします。これに関しては、私達も同じ意見です。しかし、マスコミなどで、一般の人達に、ふくらはぎを積極的に、揉んだり、マッサージしなさいというような論調で、言われていることには、あまり賛成できません。
この地球上の動物の中で、このような立派なふくらはぎを持っているのは、人間だけです。当たり前のことですが、馬や犬も、ライオンも、象も、いわゆるふくらはぎという部分はほとんどありません。
実はこのふくらはぎの大きな筋肉は、立ち上がり、二本足で、ゆっくりと長時間歩行するために、人間だけに発達した特殊な筋肉なのです。(サーカスの熊も猿回しの猿も二本足で歩きますが、早歩きであり、安定してゆっくりと歩くことはできません。)
この人間独特のふくらはぎの大切な役目は、主に二つあります。
1)足先に降りた血液を心臓に戻す、「還流」作用
人間は、二本足で立つことになった時に、四本足時代と変わらない大きさの心臓を、高い位置に持ち上げてしまったため、この状態で全身の血液循環のコントロールをしなければならなくなりました。
上(頭蓋骨や脳)には、ある程度の血圧の力で、上向きの噴水を噴き上げることで送り届けられ、自然に引力の力で静脈として帰ってきます。しかし心臓の力と引力によって足先まで降りた血液を、遠いところから吸い上げていくことは、この小さな心臓の力では不充分なのです。
昔、中学校の理科の時間に、「動脈には弁はないが、静脈には弁がある」と習ったことを思い出します。実際、四肢(手足)の静脈にはしっかりと弁が備わっています。これは手先や足先という遠いところへ送られた血液が、筋肉が動くことによる「筋肉ポンプ」の働きで心臓に戻るとき、逆流を起こさないように弁があるのです。ポンプが筋肉の律動によって働く度に、静脈血は少しずつ送られて心臓に近づき、これが戻らないようにするための構造なのです。
立ち上がった人間の身体において、足先は、心臓から一番遠いところにあり、心臓の力だけでは、到底血液を吸い上げて戻すことができないため、この立派に発達したふくらはぎの筋肉ポンプの強い作用を駆使して、しっかり静脈血を心臓に戻すことによって、再び足先に熱と酸素を携えた、新しい動脈血を送り届ける機能が維持されているのです。
このふくらはぎの下腿三頭筋の筋肉ポンプは、心臓とよく似た形をしており、その縦に長いハート型の形の特徴によって、形状ポンプとして還流作用を高めています。それは、アキレス腱が引っ張られることによっておこる「ふいご」(昔、鍛冶屋さんなどが、火に風を送るために使っていた道具)に似た働きです。特に歩行によって、後側にある足のアキレス腱は、強く引っ張られ、この力によって下腿三頭筋の細長いハート型が絞られことで、心臓の動きと同じく静脈血を「ふいご」のように上に噴き上げます。この動きによって、弁に挟まれた血管の部屋を順次送られていきます。
この筋肉ポンプの下腿三頭筋を鍛えるための運動として、よく言われているような、背伸び運動や足首をそらす運動をしても、一度に100回もやれば、限界だと思います。
しかし、私達が推奨している40分歩行ならば、片足約2500回から3000回の「ふいご」の動きが自然に起こることになります。そしてそのリズムは心臓の拍動によく似ています。(一分間に60回くらい)
それに加えて、この下腿三頭筋の形自体が、物理的に血液を還流させている「ワイングラス効果」があります。細長いワイングラスの形を想像してもらうと、わかっていただけると思いますが、ワインをグラスに注いだ時に底に届いたワインが、逆にグラスをさかのぼってくる現象を見たことがあると思います。ふくらはぎのこの形は、その力も利用して、形状ポンプの働きを高めて、還流をより効率よく行うためにできているともいえます。
以上のような理由で、ふくらはぎが第二の心臓といわれるのは、最初に述べた通り、正しいことだと思います。
しかし、このふくらはぎには、還流機能を充分に発揮するために、大、小の伏在静脈をはじめ、網目状やクモの巣状の小さな静脈も含めて、多くの血管が存在しています。
このように、多くの細かい血管を持ったふくらはぎを、専門的な教育を受けていない一般の人たちが、むやみに強い刺激を加えることで、これらの大切な血管と、ふくらはぎの還流作用を、逆に壊してしまうのではないかと危惧しています。
例えば起立姿勢や歩行の時に、様々な理由で、重心が前へ行くと、このふくらはぎが緊張して、身体のバランスを戻そうとして働きます。特に、妊娠、出産や日常生活の姿勢、自転車や車の多用などによって、骨盤の仙腸関節に離開(ゆるみ)が生じると、重心はわずかに前に移動し、これを修正しカバーするために、ふくらはぎの下腿三頭筋は緊張します。
この緊張が長期にわたって続く事で、還流機能が低下するのはもちろん、筋疲労による夜間や起床時のけいれん(こむらがえり)も発生しやすくなり、この状態が更に進めば、わずかな力や当たり前の動作によって、下腿三頭筋の肉離れやアキレス腱断裂なども起こってきます。
この骨盤の仙腸関節の離開を含めた、重心バランスの変化を修正し、再構築するためにも、やはり歩行が一番効果的であり生理的なのです。
(症状についてのの考え方、骨盤が「歩くと修復される」のはなぜか?の項を参照)
反対に、椅子に座る姿勢は、引力の力で足先まで血液は送られますが、下腿三頭筋の筋肉ポンプは、ほとんど働くことはなく、血液はそのまま下にとどまって、むくみの原因になってしまいます。エコノミー症候群などがその典型です。しかしこの座ることによって起こる問題は、足の疲れやだるさが伴わないために、あまりこのことを意識されることはありません。
このように、本当はデスクワークや運転の仕事などで、座り続けることの方が、むくみの大きな原因になっていることを知っていてください。(寝る姿勢と正座は、その姿勢と足の位置によってむくみは起きません)そしてこのような座ることによって起こるむくみも、歩行を積極的に行うことで解消されます。
やはりむくみを根本的に防いでいくためには、歩行が一番大切です。
下腿三頭筋は、四足動物から直立二足歩行をする人間になっていくとき、特に大きく変化した場所です。身体の重要な部分から最も離れたところにあるにもかかわらず、健康を維持するために絶対欠かせない大切な筋肉である下腿三頭筋(ふくらはぎ)の機能を、最大限、発揮させるためには、それを作り上げてきた直立二足歩行を、しっかり続けていくことが最も効果的であるということを解ってください。