自転車について考える

 

自転車と骨盤

最近、中高年の方々が、かっこいいスポーツタイプの自転車にさっそうとまたがって疾走しておられる姿をよくお見かけします。また子供たちの自転車も、スポーツタイプやおしゃれな自転車が増えてきました。流行の電動自転車も含め、今また再び、自転車ブームになっているようです。確かに他の乗り物より脚力を使うし、運動量も多いので、健康的だと思われがちですが、自転車にも様々な問題点があり、特にここでは骨格系の面からの影響を取り上げてみたいと思います。

 

私達が考える自転車による一番の悪影響は、骨盤の離開です。人間の骨盤は真ん中の仙骨を挟んで、両側の腸骨(寛骨)があり、これが股関節から大腿骨(太ももの骨)を通じて、足につながっています。しかしながら、この仙骨と腸骨を直接結び付ける筋肉はありません。しっかりした靭帯によって、大きなずれが起きないように、補強されていますが、自力でこの関節のゆるみをかみ合わすことのできる筋肉は、無いのです。

 

少しややこしい話で恐縮ですが、本来骨盤は、人間が立ち上がった時、下向きの三角形である仙骨に対して、左右両側の腸骨(寛骨)が大腿骨の角度(頚体角=加重時ほぼ120度になる)を通じて、体重の抗力(体重の分だけ地面から帰ってくる力)によって、両方から仙骨を挟み込む力がかかります。そして上半身の重さが脊椎を介して仙骨の底辺(すなわち上の部分)にかかることによって、三方向からの骨盤の形を作り、安定させるように働いています。

 

  

 

このように直立し、歩くことによって、筋肉でかみ合わすことのできない骨盤が、守られ維持されているのです。そしてこのメカニズムによって、人間のスムーズな動きが作られています。

 

これに対して、自転車のサドルは、骨盤の下から腸骨と恥骨結合を、持ち上げるような「くさび」の働きをするため、骨盤は、外側に開いてしまいます。同時にペダルに置いた足からは、体重分の効力を作ることができないため(サドルが体重を受けるため)股関節の骨頭が、しっかり骨盤を挟み込むことができなくなり、この骨盤の開きをカバーすることができなくなります。

 

このことにより、骨盤の仙腸関節は緩み、不安定性を作ってしまいます。競輪選手に比較的腰痛が多く、また慣れない人が長距離のサイクリングに行くと、腰の抜けたようになって立てなくなるのも、この骨盤の開きが原因になります。

 

また、この骨盤の開きは、均等ではなく、人によって左右それぞれ違うため、これがその上の背骨の傾きを作る原因になります。この状態が長く続くと将来の椎間板ヘルニア脊柱管狭窄症の遠因を作り、股関節の代償、修正によって膝や足、肩や肘、手の問題まで引き起こす原因を作ります。そのうえ、この骨盤の開きや左右のひずみは、骨盤内膜の緊張やねじれを作り出すことによって、骨盤の中にある様々な臓器に悪影響を与えてしまう可能性もあります。

 

もともと人間の足腰は、土踏まずの筋肉や、大腿骨の回旋力、仙腸関節の油圧式のショックアブソーバーなど、素晴らしい衝撃吸収装置を備えています。様々な運動や歩行における足からの衝撃は、そのほとんどを体幹部分に伝えないように作られているのです。しかし自転車は、サドルのクッションとばね、タイヤの空気だけで十分な衝撃吸収ができず、長時間、頻回に自転車に乗ることによって、この振動衝撃は、直接、骨盤内の臓器や、脊柱に対して様々な影響を与えてしまいます。

   

曲接骨院では、妊婦の方や、産後三か月くらいは自転車を禁止しています。骨盤の開きや振動の影響を極力抑え、無事な出産と産後の体調管理のために、厳しく注意するようにしています。仕事でどうしても自転車に乗らなければいけない人、自転車が趣味で大好きで止められない人も少なくありません。

それでも腰や膝、股関節、泌尿器や婦人科に大きな問題を持っておられる人や、妊娠中、産後の方は、やっぱり状態が落ち着くまで、自転車は避けたほうが良いと私達は考えています。もし、それでも自転車に乗らなければいけない人は、自転車による悪影響を、極力減らしていくことが必要です。

 

そのために一番大切なのは歩行です。充分に歩くことで、自転車によって開いた骨盤を、また元の安定した形に戻すことができます。但し完全に自転車の影響を取り去ろうとするなら、少しぐらいの歩き回りではだめで、最低週3~4回の40分の連続歩行が必要になります。それを続けることで、自転車による骨盤離開を、自己整復していくことができるのです。

時間的にどうしても無理な場合でも、せめて仕事や自転車が必要なケース以外は、自分の足で歩いて、少しでも自転車の悪影響を減らしていく努力が必要です。また骨盤の開きを防ぐスクワット運動などもありますが、これは、その人の状態を診察し、個別に頻度や回数を指導してゆかなければいけませんので、別の機会に改めて述べたいと思います。  

 

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