日本人の特徴について考える① |
最近、日本舞踊をされている方たちの中で、膝を痛めてしまう人をよく見かけます。何十年続けているベテランの方や、相当高いレベルのお師匠さんまで同じように膝を痛めておられます。踊りを続けるために手術しかないと言われ、何とかならないかとよく相談を受けます。
日本舞踊の動きをよく見てみると、深く膝を曲げた姿勢や、そのまませりあがったり、回転したり、結構足腰に過酷な動きが多く、負担がかかるのは当然だと思います。
西洋の踊りでフラメンコや社交ダンス、フラダンスなどでも、動きの激しい踊りはありますが、日本舞踊のようにゆっくりと膝を曲げこんだり、中途半端な角度で止めておくような動きはあまり見られません。足腰、特に膝に関しては、日本舞踊の動きは、見た目よりも相当負担が大きく、膝を痛めやすい動きだと思います。
しかし、私が30年以上前、この仕事を始めたころは、日本舞踊をされている人の中で、膝の故障を抱えている人は、ほとんどおられませんでした。当時は、高齢者と言えば明治生まれの方が中心で、今あらためて考えてみるとこの違いの大きな要因は、日常生活の形にあると思われます。
当時は、畳の部屋での生活がほとんどで、多くの女性が何時間正座をしていても平気で、椅子の上でも正座をしてしまうような人たちが多くおられました。またトイレも和式トイレで、深くしゃがみ込む姿勢も当時の生活の中では、当たり前に行われていました。
踊りの先生たちは、火鉢やお膳を横に置いて、正座の姿勢で何時間もお稽古をつけておられたように思います。この普段から正座やしゃがみ込みを当たり前にしていた生活から、日本舞踊が生まれ、その動きを無理なく可能にしていたと考えられます。
現代の椅子や洋式トイレの生活の中で、ほとんどしゃがみ込んだり、正座やそんきょの姿勢をする機会のない日常を送っている人が、突然日本舞踊を習って、あの動きをしようと思っても、膝や股関節に大きな負担がかかり、障害を起こしてしまうことは、充分考えらます。この日本舞踊のような日本人らしい動きは、畳と座敷の生活から起こる、正座や胡坐、しゃがみ込みの日常から培われてきたものだと考えられます。
最近日本でも、一般に正座をさせない傾向になってきたように思います。一部では、正座をすると膝が悪くなると信じられていくようです。しかし私達はその意見には反対です。
確かに、膝を痛めている人が正座をすると痛いというのは当然の事です。
しかし正座をすることが膝に悪いという考えは、「日本人にとっては」誤りで、むしろ昔の正座を習慣的に行っていた日本人は、世界でも有数の足腰の強い人種であったと報告されています。
私達は高齢者の膝の治療に置いても、もし可能なら正座をすることをむしろ奨励しています。そして今現在できなかったとしても、治療のゴールを正座ができるという事に設定して、患者様と一緒に努力していくように努めています。
現在の大相撲を見るとよくわかりますが、昔は(私自身の思い出話になってすみません)先代の貴乃花や輪島の黄金時代に、初めての外人力士である高見山の動きは大変特徴的でした。(彼はサモア系ではありますが)
手足の長い上半身のパワーが強い力士で、ツボにはまると、大関でも横綱でもひとたまりもなく飛ばされてしまいます。しかし、しっかり受け止められて下半身の攻撃を受けてしまうと、あっけなく倒されてしまいます。その倒れ方も特徴的で、これはその後の小錦や曙、琴欧州などにも共通しています。
しかし、最近の日本人力士は、この外人力士と同じような動き方、倒れ方が目立ち、相撲の取り組み自体も、昔の貴乃花や輪島の時代のような土俵際の攻防やうっちゃり、つり出しなどの足腰の粘りを利用した取り口が、本当に少なくなってきたような気がします。(逆にモンゴル勢の粘り腰が目立ちます)
この変化も日本舞踊と同じように、現在の日本の生活様式の変化が大きく影響しているように思われます。
正座が膝に悪い。子供たちにうさぎ跳びをさせてはいけない。このような現在の考え方に関して、私達は疑問を持っています。
根本的に人種の違いがあり、西洋の人たちやアフリカ系の人たちの多くは手足が長く、膝は少し後ろに入った反張膝といわれる形になっています。それに比べて日本人の膝は軽い屈曲膝で、もともとわずかに前に曲がったような膝の形をしています。
例えば、女性がハイヒールを履いた時、海外の人たちの少し後ろに入った膝は、逆に真っ直ぐになって非常によく似合うのですが、日本人の場合はどんなに手足の長い、背の高いモデルのような女性でも、ヒールを履くと残念ながら、少し前に曲がったような膝の形になってしまいます。
また体操競技やバレー、フィギアスケートなどの動きの中でも、日本人は膝をきれいにしっかり伸ばす事が結構大変で、見た目や採点のハンディになりやすいのです。しかし、逆に正座やうさぎ跳びにおいては、もともとの屈曲系の膝が幸いして、負担にはならず、そのような動きを普通に当たり前に続けてきたことで、日本人は前述のように足腰の強い人種になっていったのです。
今から50年前の子供たちは、長時間正座をしても、うさぎ跳びを強いられても、膝を壊すような子供はほとんどいませんでした。
このように正座やうさぎ跳びの影響は、人種によって大きく変わってきます。
海外では、ジャパニーズシッティング(正坐)やうさぎ跳びが、膝に悪いと言われているのは、仕方がない事ですが、本当は人種による膝の形態の違い(大腿骨下端の形状)が大きく影響していて、以前のほとんどの日本人にとっては、これらの動きは特に問題になる事もなく、むしろ膝や下半身を強くする有効な手段であったという事が考えられます。
今、この椅子や洋式の生活が当たり前になってきたことで、将来はこれらの正座やうさぎ跳びが膝の負担になっていく事は、残念ながら避けられないと思います。しかしこのことが先述のように、相撲や柔道、日本舞踊、茶道や華道などの、日本人特有の下半身の動きや体の使い方から生まれた、素晴らしい文化や伝統が消えていく事は、本当に残念なことだと思います。
この頃の子供たちを診ていると、しゃがむという姿勢をとることができない子供たちが増えてきたことを実感させられます。そんきょや和式トイレの姿勢をとらせると、後ろに倒れてしまいます。正座もダメ(体罰になるらしいです)、うさぎ跳びもだめ、和式トイレもほとんど姿を消したこれからの日本人の足腰が心配です。
海外の肉類を中心とした食生活を続けてきた人達の、上半身の圧倒的なパワーに負けない、日本人独特の足腰の強さが、このまま失われていく事に対して、私達は強い不安を覚えます。せめて一日数分間の正座の習慣や、小、中学校での和式トイレ位は残していけないものかと考えてしまいます。